コラム

一年以内に菅内閣を退陣させたい──規制改革に抵抗する既得権者の思惑

2021年01月29日(金)12時10分

規制改革を政策の本丸に据える菅内閣だが...... Kazuhiro Nogi/REUTERS

<政権与党・霞が関の既得権者が菅内閣の規制改革を潰そうと躍起だ。菅内閣の規制改革の手法はどうすればいいのか......>

1月28日参議院予算委員会で、日本維新の会の柳ケ瀬裕文議員から規制改革に関する質疑が行われた。その冒頭で、柳ケ瀬議員は菅総理から下記の答弁を引き出している。

(柳ケ瀬議員)
「規制改革についてお伺いをしてまいりたいと思います。菅総理は規制改革をこの政権のど真ん中に置くのだということを高らかに宣言していらっしゃるわけでありますけれども、あらためて菅総理の規制改革の必要性に対する思いをお伺いしたいと思います。」

(菅総理)
「まずは新型コロナの感染、これを終息させることが最優先でありますが、その後に規制改革を進めて、役所の縦割り、既得権益、悪しき前例主義、こうしたものを打破して次の成長の突破口を作っていくのが内閣の役割だと思っています。」

菅内閣が新型コロナウイルスに関して後手に回っていることは事実であろう。しかし、この問題はワクチンの開発・普及が途上である以上、誰がやっても問題が発生することに変わりはない。

それにも関わらず、菅内閣に対して半ば倒閣に繋がりかねないようなコメントを行う与党議員が後を絶たないことは問題だ。この背景には菅内閣が推進しようとしている規制改革に対する激しい拒否感が政権与党及び霞が関の中に蔓延していることを伺わせる。

既得権者が菅内閣の規制改革を潰そうとしている

政権与党・霞が関が菅内閣の規制改革を潰そうとしている様子は、養父市で国家戦略特区として推進されていた「農地の株式会社による取得」の全国展開が特段の問題が無いにもかかわらず1年見送りになったことに象徴されている。今後1年以内に菅内閣を倒閣されることになれば、この規制改革の一丁目一番地の実験は事実上無かったことにされて葬り去られることになるだろう。

河野大臣が記者会見で、UBERの解禁すらできず既存のタクシーの仕組みを改善することを規制改革として誤魔化そうとしている点など、およそ規制改革の本質から大きく逸脱した改革を規制改革とせざるを得ない姿からも既得権の抵抗の強さを感じさせる。このままでは印鑑廃止という行政手続きの簡素化だけで規制改革が掛け声倒れに終わってしまうかもしれない。

簡単に言うと、規制改革とは既得権の解体である。したがって、政策の本丸に規制改革を据える菅内閣が、コロナ対策で手間取って支持率を低下させて退陣することは政権与党・霞が関の既得権者の悲願だと言える。仮に1年以内に菅内閣が退陣した場合、ほぼ全ての規制が無傷で温存されることになるだろう。

内閣退陣にまで至らなくとも、菅総理の政治的リーダーシップを毀損すれば規制改革を実現する力は無くなる。我々は連日の菅下しの報道は政治闘争の側面がそのような背景があると認識するべきだろう。今、菅下し報道に簡単に与することは、既得権側の言論に転がされることであり、それらの報道内容に対しては話半分のものとして捉えるべきだ。

プロフィール

渡瀬 裕哉

国際政治アナリスト、早稲田大学招聘研究員
1981年生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。 機関投資家・ヘッジファンド等のプロフェッショナルな投資家向けの米国政治の講師として活躍。日米間のビジネスサポートに取り組み、米国共和党保守派と深い関係を有することからTokyo Tea Partyを創設。全米の保守派指導者が集うFREEPACにおいて日本人初の来賓となった。主な著作は『日本人の知らないトランプ再選のシナリオ』(産学社)、『トランプの黒幕 日本人が知らない共和党保守派の正体』(祥伝社)、『なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか』(すばる舎)、『メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本』(PHP新書)、『2020年大統領選挙後の世界と日本 ”トランプorバイデン”アメリカの選択』(すばる舎)

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場・寄り付き=ダウ一時1000ドル超値上

ビジネス

テクノロジー主導の生産性向上ブームが到来=米シカゴ

ワールド

ガザの学校に空爆、火災で避難民が犠牲 小児病院にミ

ワールド

ウクライナ和平交渉、参加国の隔たり縮める必要=ロシ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負かした」の真意
  • 2
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学を攻撃する」エール大の著名教授が国外脱出を決めた理由
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    アメリカは「極悪非道の泥棒国家」と大炎上...トラン…
  • 6
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 7
    日本の10代女子の多くが「子どもは欲しくない」と考…
  • 8
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 9
    トランプの中国叩きは必ず行き詰まる...中国が握る半…
  • 10
    ウクライナ停戦交渉で欧州諸国が「譲れぬ一線」をア…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 5
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 6
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 7
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story