コラム

バイデン時代に対応し、菅政権は「民主主義サミット」開催を支援せよ

2020年12月01日(火)15時00分

世界は既にバイデン政権を見据えた動きを本格化させつつある。日本は...... REUTERS/Tom Brenner

<バイデン氏が今年初めに外交専門誌上で発表した自らの政見によると、就任1年目に民主主義のサミットを実行すると提言している......>

米国大統領選挙が事実上終了し、バイデン政権に向けた移行作業が本格化しつつある。我々日本人も現実に向けた対応、つまり日米同盟の在り方についてバイデン時代の米国に対する方針を示す必要がある。

既に発表されたバイデン政権の人事と政策を見る限りでは、巷の井戸端会議で懸念されてきたような極端に中国に阿るようなものとは一線を画し、中国に対する抑止の方針は明確に維持される見通しが強い。問題はそれをどのように国際協調を図りながら実行していくのかということだ。

バイデン氏は就任1年目に民主主義のサミットを実行すると提言している

バイデン氏が今年初めに外交専門誌上で発表した自らの政見によると、就任1年目に民主主義のサミットを実行すると提言している。その趣旨は(1)政治腐敗との闘い、(2)権威主義からの防衛、(3)自国及び外国での人権の促進、という3つの領域へのコミットメントを各国から引き出すというものだ。このサミットには、政府関係者だけでなく民主主義の防衛の最前線で活躍する各国の市民社会組織が招かれることも明記されている。(これを受けて台湾などを含めるべきとする米シンクタンクの主張なども存在している。)

その上で、世界のGDPの4分の1を持つ米国の力とその他の民主国家の協力によって、中国に対して世界経済の50%以上を持つ存在として交渉することで、環境、労働、貿易、テクノロジー、透明性、そしてルールへの民主的利益や価値を埋め込むとしている。事実上軍事的側面を抜かせばこれがバイデン政権の対中交渉戦略の根幹となるプランと言って良いだろう。

もちろん、この構想自体には様々な問題がある。最初に問題になるのは招かれるべき民主主義国家とはどこまでを指すのか、というものだ。この枠組みの中で「民主主義ではない」とされた国は同サミット中に決定する様々な制裁措置の対象になる可能性があるため、世界中の国々が戦々恐々とした状態となっている。

中国やロシアは同サミットに招かれる可能性はないと見られているが、オバマ政権・トランプ政権時代に政権の強権性を強めた国の立場は微妙だ。そのため、バイデン当選がほぼ確定的となる中、エジプトでは政治犯の釈放が行われるとともに、トルコでは政治改革を約束するなど、既にバイデン政権の同サミットを見据えた動きが活発化している。既に世界政治に対してバイデン政権の外交戦略が間接的に影響を及ぼし始めていると言えるだろう。

プロフィール

渡瀬 裕哉

国際政治アナリスト、早稲田大学招聘研究員
1981年生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。 機関投資家・ヘッジファンド等のプロフェッショナルな投資家向けの米国政治の講師として活躍。日米間のビジネスサポートに取り組み、米国共和党保守派と深い関係を有することからTokyo Tea Partyを創設。全米の保守派指導者が集うFREEPACにおいて日本人初の来賓となった。主な著作は『日本人の知らないトランプ再選のシナリオ』(産学社)、『トランプの黒幕 日本人が知らない共和党保守派の正体』(祥伝社)、『なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか』(すばる舎)、『メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本』(PHP新書)、『2020年大統領選挙後の世界と日本 ”トランプorバイデン”アメリカの選択』(すばる舎)

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ルペン氏に有罪判決、次期大統領選への出馬困難に 仏

ビジネス

金、3100ドルの大台突破 四半期上昇幅は86年以

ビジネス

NY外為市場・午前=円が対ドルで上昇、相互関税発表

ビジネス

ヘッジファンド、米関税懸念でハイテク株に売り=ゴー
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 9
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 10
    「関税ショック」で米経済にスタグフレーションの兆…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story