コラム

なぜ「ボルトン回顧録」は好意的に評価されないのか

2020年06月29日(月)15時00分

その上、ボルトン氏はその性格故に米国の各政府組織の連絡調整を経て大統領に可能な限りの選択肢を示す、という国家安全保障担当補佐官としてのコミュニケーション能力を著しく欠いていた。ボルトン氏は要所で正確な状況認識を示すものの、自らが認識している状況すら無視したイデオロギー的な方向の政策を推進しようとし、マティス、ティラーソン、ヘイリー、ムニューチンら別の閣僚がボルトン路線に疑義を示すとそれを官僚機構のサボタージュのように見下している。

ボルトンは自らの回顧録の中で大統領の意思決定をサポートする重要な位置におりながら、彼の単純な思考に疑問を呈すクライアントとその組織を馬鹿にするダメな経営コンサルのような発言を繰り返しているだけの存在でしかない。

好意的に受け止める米国の政界関係者は皆無か

したがって、同書の内容は、ボルトンの、ボルトンによる、ボルトンのための「ボルトン史観」に過ぎず、トランプ大統領に同情することはなくとも、同書内容を好意的に受け止める米国の政界関係者は皆無だろう。

同書は外国のメディアが内容を騒ぎ立てる以外は、米国の敵対者にとって同政権の主要メンバーの性格を知り得る手がかりを提供した以外には何ら価値がないものだと言える。ボルトンの外交安全保障の専門家としての名声は彼が手にした報酬とともに終わったと言える。

プロフィール

渡瀬 裕哉

国際政治アナリスト、早稲田大学招聘研究員
1981年生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。 機関投資家・ヘッジファンド等のプロフェッショナルな投資家向けの米国政治の講師として活躍。日米間のビジネスサポートに取り組み、米国共和党保守派と深い関係を有することからTokyo Tea Partyを創設。全米の保守派指導者が集うFREEPACにおいて日本人初の来賓となった。主な著作は『日本人の知らないトランプ再選のシナリオ』(産学社)、『トランプの黒幕 日本人が知らない共和党保守派の正体』(祥伝社)、『なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか』(すばる舎)、『メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本』(PHP新書)、『2020年大統領選挙後の世界と日本 ”トランプorバイデン”アメリカの選択』(すばる舎)

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