コラム

バイデンの「トランプか私かを迷う黒人は黒人ではない」発言の衝撃

2020年05月26日(火)19時30分

米大統領選で民主党候補指名を確実にしているジョー・バイデンの発言が問題に...... REUTERS/Carlos Barria

<ジョー・バイデン元副大統領が発した言葉が物議を醸している。バイデンが持つ候補者としてのリスク、そして共和党としての攻め手が明確になった貴重な瞬間だった......>

シャーラメイン・ザ・ゴッドとして知られるアフリカ系パーソナリティが務めるラジオ番組の取材で、民主党の大統領候補者に内定しているジョー・バイデン元副大統領が発した言葉が物議を醸している。

その発言は取材終了時間が来たために立ち去ろうとするバイデンに対し、パーソナリティ側から「NYに貴方が来たときは私たちのインタビューを受けてください。なぜなら11月まではまだ長い道のりがあり、私たちは多くの質問を持っているのだから」と言葉を投げかけられたときに、その返答としてバイデンの口から発せられた。


「あなたがトランプか私かを迷っているなら、あなたは黒人ではない。私の実績を見てください。投票権法を25年間延長し、他の誰にも負けない実績があります。全米黒人地位向上協会も常に私を推薦してきました。」

この発言のうち、最初の「あなたがトランプか私かを迷っているなら、あなたは黒人ではない。」の部分が大きく取り上げられたことで、バイデンは大炎上してしまった。

そして、トランプ陣営や共和党議員からバイデンは人種差別的だと批判されるとともに、アフリカ系支持層からの資質を疑問視する声も上がったことから、バイデンは黒人の経営者コミュニティとの電話会議で自らの発言について釈明することになった。

一般的には、これはバイデンがアフリカ系から圧倒的な支持を獲得しているため、調子に乗って軽口を叩いてしまったと受け止められている。バイデンには舌禍やスキャンダルの気があり、その問題の一端が露呈した形となったと言えるだろう。

バイデン発言は民衆に嫌われる「ワシントン政治」を象徴するもの

しかし、実はこの問題はバイデン陣営にとっては更に根が深い問題を孕んでいる。それはバイデンの発言は民衆に嫌われる「ワシントン政治」を象徴するものだったからだ。

ワシントン政治とは「ワシントンに集まる政治屋による政治の私物化」を指す言葉だ。バイデンは若き日に上院議員に当選してから一貫してワシントン政治の人であり続けた。現在の米国民の多くは、このワシントン政治を腐敗の温床と位置付けており、そのような言動に対して強い嫌悪感を持つ人が増えている。簡単に言うと、ワシントンの政治家は民衆から「ご立派な大義名分を述べているけれども、結局は自分の私腹を肥やすだけだろ」とみなされている。

プロフィール

渡瀬 裕哉

国際政治アナリスト、早稲田大学招聘研究員
1981年生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。 機関投資家・ヘッジファンド等のプロフェッショナルな投資家向けの米国政治の講師として活躍。日米間のビジネスサポートに取り組み、米国共和党保守派と深い関係を有することからTokyo Tea Partyを創設。全米の保守派指導者が集うFREEPACにおいて日本人初の来賓となった。主な著作は『日本人の知らないトランプ再選のシナリオ』(産学社)、『トランプの黒幕 日本人が知らない共和党保守派の正体』(祥伝社)、『なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか』(すばる舎)、『メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本』(PHP新書)、『2020年大統領選挙後の世界と日本 ”トランプorバイデン”アメリカの選択』(すばる舎)

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシア、米との対話継続 ウクライナ巡る協議「複雑」

ビジネス

テスラ車販売、3月も欧州主要国で振るわず 第1四半

ビジネス

トランプ氏側近、大半の輸入品に20%程度の関税案 

ビジネス

ECB、インフレ予想通りなら4月に利下げを=フィン
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 9
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story