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黒人のアイデンティティーを隠し、有名な「モルガン・ライブラリー」設立の陰の立役者になった実在の女性司書
それらの葛藤がなかったとは言えない。だが、同じく白人として生きているベラのきょうだいは結婚して子どもも生んでいるのだから、ベラだけが生まれてくる子どもの肌の色を心配して結婚できなかったというのは納得できない。ベラの本当のアイデンティティーが暴露されたら家族のアイデンティティーもバレてしまうというのなら、その逆もあるはずだ。小説ではそのあたりの説明がない。
また、人種的アイデンティティーを隠し、女性として男性以上に成功を収めたベラは、平均的な女性のような考え方はしなかったと思うのだ。恋愛観にしてもそうだ。普通の人がくよくよ悩むようなことに時間を費やしていたら、あれほどの成功は不可能だったと思う。
私はこの小説を胸踊らせながら手にとったのだが、正直に言うと、期待はずれだった。
共著者たちが描いたベラには、あの時代に差別を乗り越えてあれだけのパワーを掴んだ女性としてのカリスマ性や説得力が感じられない。ルネッサンス時代の美術史の専門家として著名なバーナード・ベレンソン(既婚者)との長年に渡る恋愛は記録にも残っているが、ベラがこの小説で描かれているようなナイーブな女性だったとは私には思えない。この恋愛に関するベラの心情や言動には同じ女性としてがっかりしたし、本当のベラに対して失礼だと感じた。
結婚は望んでいなかったのでは?
「世界最高級のライブラリーを作る」という自分のレガシーを達成すること以外は、ベラにとってさほど重要ではなかったのだと私は想像する。結婚しなかった理由も子どもの肌の色を心配したのではなく、夫や子どもの世話をしなければならない結婚そのものを避けたかったのではないか。いろいろと婚外恋愛をしているベレンソンとのゆるい恋愛関係を長く続けたのも、結婚や拘束を求められない知的な関係だから気楽だったのではないか。そもそも、「仕事が最も大切であり、恋愛はその気晴らしに楽しむ程度にしか重要ではない」という男性は沢山いるのだから、そういう女性がいても不思議はない。J. P.モルガンの死後にジャーナリストが「愛人だったのか?」と尋ねたときに「We tried!(試みたけどね!)」とベラが応えたのも、彼女の豪快であっさりした性格を示すエピソードではないかと思っている。
私が読みたかったのは、そういう豪快な人物だ。
共著者らは現在の女性読者が同情し、好感を抱き、感情移入できる女性主人公としてベラを設定したのかもしれない。でも、それは超人的な達成をしたベラという人物に対する侮辱ではないだろうか?
ベラという稀有な女性を世に知らしめることには貢献してくれたが、いろいろな意味で私にとっては残念な作品だった。
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