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有名大学教授でありながら警察官になったリベラル女性が描く「警察の素顔」
ボランティアとはいえ、通常の警官と同じように拳銃を携帯するし、逮捕することもできる。採用されるためには、ポリスアカデミーでトレーニングをしなければならない。
拳銃でターゲットを撃ち抜くテストにもなんとかパスして卒業したブルックスがパトロール警官として配置されたのは、首都ワシントンの7-D地区だった。そこは、黒人の人口が最も集中している場所であり、貧困と犯罪件数が多いことでも知られている区域だ。
トレーニング中にブルックスが何度も教え込まれたのは、(日本の110番に匹敵する)911の緊急電話で現場の状況を正しく予測することは不可能だということだ。たいしたことがないと思って行ったら罠だったこともある。
ゆえに、警察官は緊急電話の内容がどのようであれ、最悪の場合を想定して心身ともに身構えていなければならない。彼らは、すべての呼び出しが潜在的に危険であり、「君たちには、生きて家に戻る権利がある」と自分の安全と生命を優先するよう教え込まれる。
ブルックスのポリスアカデミーでの体験と新米パトロール警官として扱ったケースの話は、短編集のようで純粋に読むのが面白い。セクシャルハラスメントむき出しの問題教官はいるし、それをかばおうとする者もいる。でも、それに批判的な者も存在する。それは、他の場所でも同じだろう。
リベラル急進派の母親
これまで何をやっても優等生だったブルックスが、警官としてはかなり不器用で、「最良のときでも『まあまあ』のレベル」と自覚しているところは愉快だった。ほかの警官には見えている重要なことが彼女にはまったく見えておらず、不要なことにばかり気づくのだ。だから誰がパートナーになるかは重要だ。
あるとき、持ち主が不在の家で防犯ホームセキュリティアラームが鳴って駆けつけたら玄関の扉が開いていて、中の暗闇に人影があった。別の日にブルックスが同行したような過剰反応するパートナーだったら、まず銃を撃ってから状況を考え始めたかもしれない。幸いなことに、この日の彼女のパートナーは冷静沈着に行動できるタイプだった。そこで、結果的に笑い話で終わった。この体験は彼女に大きな学びを与えた。
この本からは、ブルックスが警官としての仕事を楽しんでいることが伝わってくる。むしろ彼女が苦労したのは、警察に批判的なリベラルの友人と家族への説明だ。特に、ブルックスの母親の警察への嫌悪感は強烈で、警察はすべて敵というスタンスだ。なにせ、ブルックスの母親はかのバーバラ・エーレンライクなのだ。
バーバラ・エーレンライクは、80年代から90年代にかけてアメリカ民主社会主義の中心的存在だった。ウエイトレスやホテルの掃除婦、ウォルマートの店員など低賃金の職を3カ月自ら体験して書いた『ニッケル・アンド・ダイムド - アメリカ下流社会の現実』は世界的に有名になり、現在でも政治的にリベラル左派の急進派である「プログレッシブ」の活動家としてツイッターのフォロワーが7万4000人もいる有名人だ。
アメリカのNetflixで近藤麻理恵さんブームが起こった2019年に「我々のお片付けのグルであるマリエ・コンドーが英語を話せるようになって初めて私はアメリカが衰退の道をたどっていないと認める」という嫌味なツイートをして炎上したこともある。母としてのエーレンライクの極端な決めつけ発言の数々を読むと、ブルックスが警察官になりたくなった気持ちが少しわかるような気がする。
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