コラム

トランプ、南部国境で「非常事態宣言」 移民流入と対テロ戦争の交錯

2025年01月27日(月)11時12分

依然として残るテロの脅威

無論、以前と比べ、世界で1年間に発生するテロ事件数や死傷者数は減少傾向にあり、今日、米国にとって差し迫ったテロの脅威は存在しないと言えよう。

しかし、2010年代半ばにイラク・シリアで猛威を振るったイスラム国中枢が弱体化する中、近年はそれに忠誠を誓い、アフガニスタンを拠点とするイスラム国ホラサン州(ISKP)による対外的なテロ活動が目立つ。


昨年1月には、イラン南東部ケルマンで革命防衛隊のソレイマニ元司令官の追悼行事を狙った大規模な自爆テロ事件が発生し、100人あまりが死亡し、同年3月にはロシア・モスクワ郊外にあるコンサートホールを狙った襲撃テロ事件が発生し、140人以上が死亡し、ISKPが両事件を実行したとされる。

また、昨年夏のパリ五輪やドイツで開催されたサッカー欧州選手権などでは、ISKP関連のテロ未遂や容疑者の逮捕が相次いで報告され、テロ対策専門家の間ではISKPの対外的攻撃性への懸念は今日でも根強い。

また、昨年12月には中東のシリアで反政府勢力による攻勢により、50年以上にわたって同国を支配してきたアサド政権が呆気なく崩壊した。

攻勢を主導したのは2017年1月に結成されたシリア解放機構(HTS)のジャウラニ指導者であるが、ジャウラニは過去にイスラム国の指導者やアルカイダのメンバーらと強い関係を持っていた。

しかし、2011年にイラクからシリアへ戻った後はアサド政権の打倒というローカルな目標一本に絞り、アルカイダやイスラム国が戦略として重視するグローバルジハードとは距離を置くようになった。

そして、ジャウラニがアルカイダとの決別を宣言してHTSを結成すると、それに反発するメンバーらはアルカイダに忠誠を誓う武装組織フッラース・アル・ディーンを結成し、HTSと交戦するようになったが、HTSによる攻勢によって今日は弱体化している。

プロフィール

和田 大樹

株式会社Strategic Intelligence代表取締役社長CEO、清和大学講師(非常勤)。専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論など。大学研究者として国際安全保障的な視点からの研究・教育に従事する傍ら、実務家として海外進出企業向けに政治リスクのコンサルティング業務に従事。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ディープシーク、米が安全保障への影響精査 知財窃盗

ワールド

プーチン氏「ウクライナに交渉意思なし」、ゼレンスキ

ワールド

チリ中銀、4会合ぶり金利据え置き インフレ加速リス

ワールド

中国がアフリカなどから畜産品・鶏肉の輸入禁止 家畜
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ革命
特集:トランプ革命
2025年2月 4日号(1/28発売)

大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? 専門家たちの見解
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 4
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 5
    AI相場に突風、中国「ディープシーク」の実力は?...…
  • 6
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 7
    トランプのウクライナ戦争終結案、リーク情報が本当…
  • 8
    フジテレビ局員の「公益通報」だったのか...スポーツ…
  • 9
    天井にいた巨大グモを放っておいた結果...女性が遭遇…
  • 10
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 1
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 2
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵を「いとも簡単に」爆撃する残虐映像をウクライナが公開
  • 3
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果が異なる【最新研究】
  • 4
    日鉄「逆転勝利」のチャンスはここにあり――アメリカ…
  • 5
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 6
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 7
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 8
    いま金の価格が上がり続ける不思議
  • 9
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 10
    軍艦島の「炭鉱夫は家賃ゼロで給与は約4倍」 それでも…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 5
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 6
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 7
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 8
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 9
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story