コラム

岸田首相は「国民の命を守り抜く」といつも言うが、本気なの?

2024年05月18日(土)18時27分
西村カリン(ジャーナリスト)

4月29日の石川県珠洲市 ©SANKEI

<能登半島地震から4カ月が過ぎた。現地に足を運んで感じたのは日本政府は大阪・関西万博の工事を優先し、能登の住民を後回しにしているのではないかということだ>

5月1日で、能登半島地震から4カ月。日本のマスコミとは異なり、多くの海外マスコミは現地の状況を見に行かない。世界のニュースの止まらない流れのなか、能登の地震はもう「終わった災害」になってしまった。

ただ、私は個人的にも記者としても見ておこうと思い、4月に続き5月1日にも能登に足を運んだ。和倉温泉に行ったら、驚きだらけ。ほぼ全ての旅館、温泉が休業している。震災4カ月後だからそれほど異常ではないかもしれないが、ほとんどの旅館やホテルで修復工事が開始されていない。道路もそのまま。あちこちで被害を受けた住宅はブルーシートがかかったまま。「ゴーストタウンだ」と近所に住んでいるおばあちゃんが言っていた。まさにそのとおりだ。

タクシー運転手は「ゼネコンは大阪万博で忙しいから、ここには業者が来ない、人材が足りない」と言っていた。七尾市の市役所に確認したところ、「関係ないとは言えないと思う。調査のためにも、工事のためにも人手が足りない」という回答だった。

ちょうど私は能登半島での取材の数日前に、大阪・関西万博の工事現場を見に行ったところだった。フランスのパビリオンの準備状況を取材したが、その時に「日本政府のサポートのおかげで、工事会社が決まった」とフランス人の担当者が教えてくれた。その時はまだ能登半島の現状を見ていなくて、あれほど工事が進んでいないことを知らなかったから、その担当者の言葉に何も返さなかった。

防災のほうが防衛より急務

でも、今はすごく違和感や怒りを覚えている。日本の官僚たちは海外のパビリオンのために一生懸命に業者を探すが、能登半島の住民は後回しにしているのではないか、と気付いたからだ。

「国民の命を守り抜く」と岸田文雄首相はいつも言うが、現実を見れば、誰の命を守っているのか。2023年度から5年間で総額43兆円を使ってミサイルなどを買うのは「国民を守り抜く」ことなのか。私はそう思わない。防衛が必要ないとは言わないけれど、あくまで武器は国民の命を守る方法ではなく、国を守る方法だ。

国と国民の命は別のものだ。国民の命を守るのなら、防災のほうが防衛より急務だろう。なぜならば日本国民の命にとって脅威なのは今のところ、中国や北朝鮮のミサイルよりも自然災害だ。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日経平均2カ月ぶり4万円、日米ハト派織り込みが押し

ワールド

EU、防衛費の共同調達が優先課題=次期議長国ポーラ

ワールド

豪11月失業率は3.9%、予想外の低下で8カ月ぶり

ワールド

北朝鮮メディア、韓国大統領に「国民の怒り高まる」 
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:韓国 戒厳令の夜
特集:韓国 戒厳令の夜
2024年12月17日号(12/10発売)

世界を驚かせた「暮令朝改」クーデター。尹錫悦大統領は何を間違えたのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼンス維持はもはや困難か?
  • 2
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達した江戸の吉原・京の島原と並ぶ歓楽街はどこにあった?
  • 3
    男性ホルモンにいいのはやはり脂の乗った肉?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田…
  • 5
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 6
    ノーベル文学賞受賞ハン・ガン「死者が生きている人を…
  • 7
    韓国大統領の暴走を止めたのは、「エリート」たちの…
  • 8
    「男性ホルモンが高いと性欲が強い」説は誤り? 最新…
  • 9
    「糖尿病の人はアルツハイマー病になりやすい」は嘘…
  • 10
    統合失調症の姉と、姉を自宅に閉じ込めた両親の20年…
  • 1
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼンス維持はもはや困難か?
  • 2
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    2年半の捕虜生活を終えたウクライナ兵を待っていた、妻の「思いがけない反応」...一体何があったのか
  • 4
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達し…
  • 5
    国防に尽くした先に...「54歳で定年、退職後も正規社…
  • 6
    朝晩にロシア国歌を斉唱、残りの時間は「拷問」だっ…
  • 7
    「男性ホルモンが高いと性欲が強い」説は誤り? 最新…
  • 8
    男性ホルモンにいいのはやはり脂の乗った肉?...和田…
  • 9
    人が滞在するのは3時間が限界...危険すぎる「放射能…
  • 10
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼ…
  • 9
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story