「海外メディアは忖度しない」は本当か?──注意すべきは「情報源」
KIM KYUNG HOONーREUTERS
<「海外メディアのほうが良い」と考える日本人は多いが、「すごい情報」なら間違っていてもいいという外国メディアもある。日本語での裏取りに時間がかかり速報性で勝負できないからこそ、正確性を重視すべき>
7月8日、奈良市で安倍晋三元首相が銃撃された事件は、世界中のマスコミにとって実に大きなニュースだった。現場にいたNHK記者のおかげで、私のスマートフォンにも速報が届いた。私はフランスの公共ラジオ放送局「ラジオ・フランス」の特派員として、直ちに国際編集部に連絡した。
「まだ情報が少ないけれど、日本のメディアによると安倍元首相が銃撃されたらしい」
その後、「心肺停止状態とも報道されている」とも伝えた。残念なことに約5時間半後、安倍元首相の死亡が確認された。
われわれ日本にいる外国特派員が選挙取材で地方に行くことは少なく、今回も現場に特派員はいなかった。そんなときは日本のメディアの情報に頼ることになる。私もいくつかの理由から、奈良には行かなかった。
やがて、その場で逮捕された山上徹也容疑者に関する報道が始まった。特に注目されたのは本人の動機だ。言うまでもなく記者が本人に聞くことはできないから、全ては警察からの情報に基づく。夕方頃から日本のメディアは次のように報じた。
「『特定の宗教団体に恨む気持ちがあった。安倍元首相が(その団体に)近いので狙った』という趣旨の供述をしていることが捜査関係者への取材でわかった」(朝日新聞)
その日、外国メディアは日本での報道に基づいて記事を書いた。ほとんどの場合、警察は外国記者には話をしないからだ。
大手メディアは「特定の宗教団体」の名称を報道しなかった。ただ、SNSなど一部で「統一教会」という情報が流れた。それでも、私はその情報を使うことはできないと判断した。自分で直接確かめようがなかったからだ。情報源の信憑性を確認できず、証言や証拠もなかった。
もし警察が「特定の宗教団体とは世界平和統一家庭連合(旧統一教会)だ」と日本のメディアに言ったなら、なぜそれが報道されなかったかが大きな問題になる。ただ警察が知らせなかった場合、名称を報じなかった判断は正しいと私は思う。
それでも、複数の外国メディアは早い段階で「統一教会」と報じ、それを見た一部の日本人は「外国メディアのほうが忖度せずに事実を書いている」とSNSに投稿し始めた。