コラム

「わが家の絆は壊れていません!」夫婦別姓歴20年の中国人夫より

2021年11月30日(火)18時05分
周 来友(しゅう・らいゆう)
高市早苗

高市早苗氏ら保守派議員は「夫婦別姓は家族の絆を壊す」と主張するが… ISSEI KATO-REUTERS

<もとより夫婦別姓の中国で「社会秩序の崩壊」や「家族の一体感の喪失」は一切起きていない──そもそも、今の日本に強い絆で結ばれた家族がどれだけいるのか>

今年、私は結婚21年目の年を迎えた。ただ、日本人の妻は旧姓のまま。つまり私たちは夫婦別姓だ。世界で唯一、法的に夫婦同姓が強要されている日本でも、外国人と結婚する場合はその範疇ではない。夫婦別姓に賛成する人たちが望む「選択的夫婦別姓」が例外的に認められているわけだ。夫婦別姓が盛んに議論されている今、この例外措置を知る人も少なくないだろう。

それでも、日本で20年以上「別姓生活」を送ってきた、しかも男の側の意見というのはなかなか貴重だろうから、ここで言わせてもらいたい。保守派は何かにつけ「夫婦別姓は家族の絆を壊す」と主張するが、わが家の絆は壊れていません!

来日当初、夫婦同姓のことを知ったときは、まるで男を持ち上げるためにつくられた制度だと思った。「うちの女房です」なんて紹介し、男の占有欲を満たす。私の生まれ育った中国はもとより夫婦別姓なので、中国より遅れているのかと驚いたものだ。

中国では、結婚で姓が変わることはない。子供はどうするかというと、どちらかの姓を選ぶ。大半は父親の姓になるが、社会的地位の高い女性が増えていることもあり、母親の姓を名乗ることもある。最近若い世代の間ではユニークな名付け方もはやっていて、母親の姓を子供の名前に入れる夫婦もいるらしい。つまり、周さん(夫)と王さん(妻)に子供が生まれた場合、「周王来友(姓が周で、名が王来友)」といった名前を付け、役所に届け出るわけだ。

訳が分からない? 確かに。でも西洋にだってミドルネームがあるわけだし、名前の付け方にもいろいろな選択肢があっていいはず。今月出版された『夫婦別姓──家族と多様性の各国事情』(ちくま新書)によれば、ドイツでは結婚した際、夫婦同姓、夫婦別姓、連結姓のいずれかを選ぶという。連結姓というのは、自分の姓に相手の姓をハイフンでつなげる方法で、夫婦のうち片方だけが採用できるのだそうだ。

多様化が進む世界で、夫婦別姓を拒否し続けている日本。反対派は「日本の伝統」だと言うが、その歴史もたかだか150年。江戸時代まで日本の庶民は姓など持っていなかった。明治維新が起こり、姓を付けろと言われた人々が、「田んぼの中だから田中にしよう」といった程度の理由で決めたにすぎない。適当に付けた姓と言ったら怒られそうだが、そんな姓がなければ維持されない絆や社会秩序って何だろう。そもそも、今の日本に強い絆で結ばれた家族がどれだけいるのやら。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ミャンマー地震の死者1000人超に、タイの崩壊ビル

ビジネス

中国・EUの通商トップが会談、公平な競争条件を協議

ワールド

焦点:大混乱に陥る米国の漁業、トランプ政権が割当量

ワールド

トランプ氏、相互関税巡り交渉用意 医薬品への関税も
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジェールからも追放される中国人
  • 3
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中国・河南省で見つかった「異常な」埋葬文化
  • 4
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 5
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 6
    なぜANAは、手荷物カウンターの待ち時間を最大50分か…
  • 7
    不屈のウクライナ、失ったクルスクの代わりにベルゴ…
  • 8
    アルコール依存症を克服して「人生がカラフルなこと…
  • 9
    最古の記録が大幅更新? アルファベットの起源に驚…
  • 10
    最悪失明...目の健康を脅かす「2型糖尿病」が若い世…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えない「よい炭水化物」とは?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 7
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 8
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 9
    大谷登場でざわつく報道陣...山本由伸の会見で大谷翔…
  • 10
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story