マクロンも羨む日本の定年引き上げ、フランスで「70歳定年」とは絶対に言えない

高齢者が仕事を続ける日本の環境は、先進国では珍しい TORU HANAI-REUTERS
<フランスの65歳以上は働きたくないと思っているので、大統領が定年延長や年金制度について発言すれば総スカンを食らうことに>
1月20日午後2時。第201回国会における施政方針演説で、安倍晋三首相は「高齢者のうち8割の方が、65歳を超えても働きたいと願っておられます。人生100年時代の到来は、大きなチャンスです。働く意欲のある皆さんに、70歳までの就業機会を確保します」と述べた。テレビを見ていた私はこう思った。「日本の首相だから、こんなことが言える」
なぜなら、フランスで大統領が定年の延長や年金制度について発言すると、必ず数十万人規模のデモが起きてしまうからだ。
65歳以上のフランス人は、絶対に働きたくないと思っている。ちょうどフランスでは昨年12月にストライキが起き、電車、地下鉄、バス、学校などが何日も停止状態だった。一部は今も収まっていないが、理由はエマニュエル・マクロン大統領が提案した年金制度改革だ。
主な争点は「régimes spéciaux」、いわゆる年金の特別制度だ。公務員など一部の労働者は歴史的に、給付条件が特にいい。国営鉄道会社の運転手が最も代表的な例だ。100年前には大変できつい仕事だったので、51歳での定年退職が可能だった。それが今も変わらないまま。こんな例がたくさんあるが、大統領がそれを変えようとすると、ものすごい批判を受ける。しかも、世論は必ずしもストライキに反対しているわけではない。
退職年齢を上げてもデモが起きないのはすごい
年金制度改革への反対運動が起きるのは初めてではない。1953年にもあったし、1995年にも約1カ月間のストや200万人が参加するデモがあった。当時のシラク政権は結局、制度改革を諦めたので、今も42種類の特別制度が存在している。財政的にも、社会的にも、政治的にももはや続けられない制度であるにもかかわらず、今回も政府が反対派に負ける可能性がある。非常に厳しい状況と言っても過言ではなく、問題の解決方法は見当たらない。
日本の状況を見て、フランス人政治家は多分「羨ましい」と思っているだろう。もちろん、高齢化社会が望ましいわけではないけれど、日本政府が定年退職の年齢をだんだんに引き上げても反対運動が起こらないことは、フランス人からすればすごいことだ。経済力が足りなかったり、社会での役割を果たしたりするために仕事を続ける高齢者の割合が高い日本の環境は、先進国でも珍しいのではないかと思う。
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