コラム

「反韓」ではなく「嫌韓」なのはなぜ?

2019年11月28日(木)17時15分
李 娜兀(リ・ナオル)

ティーン世代を中心に日本でも大人気のBTS(2018年11月13日、東京ドームにて) Kim Kyung Hoon-REUTERS

<ジムではKポップダンスで汗を流し、女子高生はBTSのコンサートに向かう......開かれた隣国関係に「全否定」はないはず>

最近、日本では嫌韓ムードがこれまでになく高まっている......らしい。10月に発行された本誌でも嫌韓を深く探る特集が掲載された。私の東京におけるホームタウンである練馬区では今年5月に嫌韓デモがあり、東京都初のヘイトスピーチ認定案件になったそうだ。「らしい」とか「そうだ」と書いたのは、自分でそうした場面を目撃したわけではなく、それほど実感が湧かないからだ。

確かに書店に行けば韓国の否定的な部分だけを取り上げ、批判する雑誌や書籍が並んでいるのが目に入る。だが2015年から3年間ソウルで暮らし2018年春に東京に戻ってきた私が驚いたのは、むしろ日本社会における韓国ポップカルチャーの受容がさらに広がっていたことのほうだった。

15年前から通う近所のジムでは、ダンスのクラスでBTS(防弾少年団)などKポップアーティストの曲をしょっちゅう取り上げるようになっていた。インストラクターはニコニコして歌詞の意味を聞いてくるし、一緒に運動するジム仲間は汗を流した後、「チョンマル ピゴナダ(ホント疲れるよね)」と韓国語で声を掛けてくれる。ドラマを見て耳で覚えたそうだが、発音もタイミングも、かなり自然だ。長女の通う高校では、Kポップグループの歌詞を見ながら韓国語を勉強する同級生も多く、連れ立ってBTSのコンサートに行ったりしている。かつての韓流ブームに比べても、対象世代を広げ、さらに深く定着しているようだ。

こうした状況は私が東京で留学生活を始めた1990年代後半と比較すると隔世の感がある。当時アパートを探そうと不動産屋に行き、気に入った部屋に申し込んでも、次から次へと断られた。ほぼ40件当たって、部屋を見せてくれたところはたったの3件。不動産屋に理由を聞くと「大家さんが嫌がるんですよね......。韓国人や中国人に部屋を貸すと家族やらなにやら増えて大勢で住むかもしれないから」。ずいぶん差別的なことを、はっきり言うのだなと驚いた。

今でも差別は残っているだろうが、20年前と比較すれば、日本社会はずいぶんと多様性を認めるようになったと思う。区役所でも多様な外国語があちこちから聞こえ、職員たちが懸命に対応している。これは東京五輪を控えていることや、観光産業や労働力市場で、日本社会を外に開くことの必要性が広く認識されてきたせいなのかもしれない。韓国文化の受容の広がりも、こうしたなかで起きていることなのだろう。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

フジ・メディアHD、業績下方修正 フジテレビの広告

ビジネス

武田薬、通期の営業益3440億円に上方修正 市場予

ビジネス

ドイツ銀行、第4四半期は予想以上の減益 コスト削減

ビジネス

キヤノン、メディカル事業で1651億円減損 前12
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ革命
特集:トランプ革命
2025年2月 4日号(1/28発売)

大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 3
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? 専門家たちの見解
  • 4
    トランプのウクライナ戦争終結案、リーク情報が本当…
  • 5
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 6
    東京23区内でも所得格差と学力格差の相関関係は明らか
  • 7
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 8
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 9
    ピークアウトする中国経済...「借金取り」に転じた「…
  • 10
    フジテレビ局員の「公益通報」だったのか...スポーツ…
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果が異なる【最新研究】
  • 4
    日鉄「逆転勝利」のチャンスはここにあり――アメリカ…
  • 5
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 6
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵…
  • 7
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 8
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 9
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 10
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 7
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 8
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 9
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 10
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story