コラム

欧州連合がGAFAを厳格に規制する法案を発表──世界のデジタル経済の行方を左右する

2020年12月22日(火)16時10分

「世界で最も有名な規制当局」と評される欧州委員会・競争委員会のマルグレーテ・ベステアー長官 Olivier Matthys/REUTERS

<欧州連合(EU)は2020年12月15日、フェイスブック、アマゾン、グーグルなどの巨大なテック系企業が欧州でビジネスを行うための厳格なルールを定めた法案を発表した...... >

デジタル経済の最重要課題

欧州連合(EU)は2020年12月15日、テック系企業が欧州でビジネスを行うための厳格なルールを定めた法案を発表した。フェイスブック、アマゾン、グーグルなどの巨大な権力を抑制しようとする法律の下、これらの企業は近い将来、EU競争法違反で巨額の罰金だけでなく、分割、操業の一時停止に直面する可能性がある。

インターネット大手の市場独占がもたらす問題への対応策は、米国内の民主・共和両党でも議論が重ねられている。データとなった市民のプライバシーを抽出し続け、追跡広告をはじめ、世界中の市民の個人データから莫大な収益を得ているビッグテックへの批判は沸騰している。先の米大統領戦で民主党候補のひとりだったエレザベス・ウォーレン上院議員は、グーグルやフェイスブックを解散に追い込むべきとの強硬論を主張してきた。

そんな中、デジタルサービス法(DSA)とデジタルマーケット法(DMA)と名付けられた欧州委員会の法案は、EU法において長い間延期されてきた革新の幕開けを告げるものだ。デジタル経済の枠組みを設定するEUの規制のほとんどは、20年前のものであり、これまで更新されてこなかった。

混沌に秩序をもたらすか?

欧州委員会の副委員長で競争委員会を率いるマルグレーテ・ベステアー長官と、EUのデジタル政策責任者であるティエリー・ブルトンは、12月15日、ブリュッセルのEU本部において草案を発表した。

takemura1222_2.jpg

マルグレーテ・ベスタガーは、デンマークの政治家で経済大臣を努めた後、2014年より欧州委員会の競争委員会長官、2019年より欧州委員会副委員長。競争委員としての立場で、グーグル、アップル、アマゾン、フェイスブック、クアルコムを含む主要な多国籍企業を調査、訴訟を起こすことで国際的に知られている。彼女は、「世界で最も強力なトラストバスター」および「世界で最も有名な規制当局」と評されている。© European Union, 2020. Photo by Aurore Martignoni

takemura1222_3.jpg

ティエリー・ブルトンはフランスの実業家、政治家。2019年12月1日以来、彼は欧州委員会のEU市場と産業政策担当委員を務めている。2019年10月、彼はエマニュエル・マクロン大統領からフランスのEUコミッショナーのポストに指名された。©European Union, 2020. Photo by Aurore Martignoni

ベステアー執行副委員長は、これまでもEUの競争法(大企業などの市場に対する圧力を規制する法体系)を盾に、GAFAに巨額な制裁金を課してきた。ベステアーは2つの法案を、20世紀初頭、自動車という新技術による交通の混乱を制御した電動信号灯に例え、「デジタル時代に適合する二つの道標」だと説明した。

サービス法は「インターネットの大混乱に秩序を与える」目的だと強調し、「デジタルサービス法とデジタルマーケット法は、表現の自由を保護しつつ、安全で信頼できるサービスを創出する」と、ベステアーはブリュッセルでの記者会見で述べた。

法案の内容

2つの法案は、インターネット企業が行うべきこと、してはいけないことの罰則リストを定めている。以下の8つが、具体的な規制事項である。

1. EU 域内に4,500万人以上のユーザーを持つ企業は、デジタル「ゲートキーパー(情報伝達の仲介者)」に指定され、より厳しい規制の対象となる。
2. 企業はEU競争法に違反した場合、年間売上高の10%までの罰金を科せられる可能性がある。
3. 企業は、その事業の一つまたは一部(権利やブランドを含む)の売却を要求される可能性がある。
4. 遵守を拒否し、「人々 の生命と安全を危険にさらす」プラットフォームは、「最後の手段として」 サービスを一時的に停止される。
5. 企業は、計画されている合併や買収の前にEUに通知する必要がある。
6. 特定の種類のデータは、規制当局やライバル企業と共有しなければならない。
7. 自社サービスの利益だけを有利に貫く企業は非合法化される可能性がある。
8. プラットフォームは、違法、妨害、誤解を招くようなコンテンツに対する責任を負うことになる。

デジタルサービス法は、企業規模に関係なく、すべてのデジタルサービスに適用され、e-コマースとソーシャルメディア・プラットフォームに加えて、インターネット・プロバイダー、比較ポータル、予約ポータル、アプリストア、クラウドやウェブ・ホスティングサービスも規制の対象となる。

プロフィール

武邑光裕

メディア美学者、「武邑塾」塾長。Center for the Study of Digital Lifeフェロー。日本大学芸術学部、京都造形芸術大学、東京大学大学院、札幌市立大学で教授職を歴任。インターネットの黎明期から現代のソーシャルメディア、AIにいたるまで、デジタル社会環境を研究。2013年より武邑塾を主宰。著書『記憶のゆくたて―デジタル・アーカイヴの文化経済』(東京大学出版会)で、第19回電気通信普及財団テレコム社会科学賞を受賞。このほか『さよならインターネット GDPRはネットとデータをどう変えるのか』(ダイヤモンド社)、『ベルリン・都市・未来』(太田出版)などがある。新著は『プライバシー・パラドックス データ監視社会と「わたし」の再発明』(黒鳥社)。現在ベルリン在住。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story