金正恩を激怒させた映画とは?...「激おこ」独裁者たちによるサイバー覇権戦争
表現の自由は、誰もが歴史上最も奇妙なサイバー攻撃の一つであると考える事件の中心をなしていた。
その事件とは、北朝鮮の独裁者金正恩(Kim Jong-un)の暗殺を企てる――CIAの陰謀に協力するトークショーの司会者をセス・ローゲン(Seth Rogen)とジェームズ・フランコ(James Franco)が演じる――バディ・コメディ映画『ザ・インタビュー』をめぐって生じた。
2014年夏に予告編が公開されると、北朝鮮はこの映画が「テロリズム」であり「強力で容赦のない対抗措置」をもたらすと警告した。
アメリカ政府の関係者も、映画の製作会社ソニー・ピクチャーズ社も、さほど心配しているようには見えなかった。ローゲンは「映画のために12ドルを支払った後まで、誰も私の映画のために私を殺したいと思わないはずだ」とツイートした。
しかし、金正恩は面白くなかった。当時、いわゆるハミット王国〔英語のhermitは「世捨て人、隠遁者」の意。歴史的に17世紀から19世紀後半まで中国以外の諸外国との接触を控えていた当時の朝鮮を指す言葉。現在では北朝鮮に対してこの表現が用いられている〕のIPアドレスの数は、ニューヨーク市の平均的な街区よりも少なかった。
だが金正恩はインターネットを〔アメリカに対して〕劣勢な独裁政権にとっての非対称的兵器と考えた。「サイバー戦は、核兵器やミサイルと並んで、わが軍の容赦ない攻撃能力を保証する万能の剣だ」と、彼は2013年に宣言している。
中国やロシアの専門家の訓練を受け、北朝鮮のサイバー能力は急速に向上し、推定6800人のハッカーを擁するまでになった。
感謝祭の週、ソニー社のコンピュータが突然ダウンした。ハッカーたちは自らを「平和の守護者」と呼び、「我々はすでに警告していたはずだ。これはほんの始まりにすぎない。我々は要求が満たされるまで続ける。我々は最高機密を含むすべての内部データを入手した」というメッセージを残した。
やがて、内部データが流出し始めた。社会保障番号、業績評価、その他の個人情報を含む約4000万件のファイルである。
その中には、ある幹部がアンジェリーナ・ジョリー(Angelina Jolie)について「最低の才能しかない、わがままなガキ」と表現した興味をそそるゴシップや、ソニー社内の男女間の給与格差が不快なほど大きいことを示す給与情報などが含まれていた。