金正恩を激怒させた映画とは?...「激おこ」独裁者たちによるサイバー覇権戦争

SHAMIL ZHUMATOV via Reuters Connect
<世界規模のサイバー攻撃は、独裁者の嫌いな映画の製作に起因していた...>
サイバーセキュリティの専門家として2020年までグーグル社で対偽情報・外国介入のポリシー策定を主導し、2025年発足のトランプ政権で経済成長・エネルギー・環境担当の国務次官に指名された著者が呼びかける、新たな「テクノロジー冷戦」への警告。
アメリカ外交の今後を占うための必読書『サイバー覇権戦争──ソフトとハード、二つの戦線』(作品社)より第1章「グレー戦争の起源」を一部抜粋。
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21世紀のウォーターゲート事件
ロシアや中国がネット上で自己主張を強めている間にも、別の独裁者たちが行動を起こしていた。2010年、スタックネットと呼ばれる高度なワームが、イランの遠心分離機を1000基程度破壊し、イランの核開発計画を後退させた。
このマルウェア攻撃は、アメリカとイスラエルによって実施されたものであると広く知られている。これに対抗し、イランの宗教指導者たちはサイバー作戦を強化し始めた。
2012年夏には、サウジアラムコ石油会社に対するイランのサイバー攻撃により、3万5000台のハードディスク・ドライブが損壊し、同社は5万台のコンピュータの買い替えを余儀なくされた。このとき、ハードディスクの世界価格が半年間にわたって高騰した。
その数カ月後、イランは「アバビル作戦」を開始し、バンク・オブ・アメリカ、JPモルガン・チェース、その他の金融機関に対して破壊的ではないものの注意を引くのに十分な一連の攻撃を実施した。
翌年、カジノの大富豪で保守派の大口寄贈者(メガ・ドナー)であるシェルドン・アデルソン(Sheldon Adelson)は、イランの核開発に対する警告として、イランの砂漠の一角を核攻撃すべきだと公に提案した。
これに対し、イランの最高指導者ハメネイ師(Ayatollah Ali Khamenei)はアデルソンに「強烈な平手打ちを受けるべきだ」と反論した。その平手打ちは、2014年初めにアデルソンのカジノ「サンズ」のネットワークに深刻な被害を与えるサイバー攻撃という形でもたらされた。
この攻撃により、ラスベガスのコンピュータの75パーセントが破壊され、従業員の機密データが流出し、アデルソンのビジネスに約4000万ドルの損害を与えた。これはアメリカ企業を標的とした国民国家による最初の破壊的な攻撃と考えられている。