パナマ運河やグリーンランドを取り戻すというトランプの姿勢は、かつてアメリカが自明と見なしていた西半球重視の復活にすぎない
HEMISPHERIC DEFENSE
こうした歴史の記憶から、アメリカの外交エリートたちは西半球への関与を控える道を選んできた。
やがてアメリカがイスラム主義者によるテロとの戦いに重点を移すと、西半球の重要性はさらに薄れた。この地域の政情不安はアメリカの安全保障にほとんど影響を与えないと見なされ、西半球は軽視されていった。
アメリカが中東や南アジアに気を取られている間に、敵対する勢力がその空白を埋めようと動き始めた。中国は2000〜22年で、中南米との貿易を35倍に拡大し、地域の多くの大規模経済にとって最大の貿易相手国となっている。
今や西半球の20カ国以上が、中国の推進する巨大経済圏構想「一帯一路」に参加している。この構想は、中国が参加国に対して強制的な経済的・政治的影響力を握るよう設計されている。さらに中国は18カ国の大規模港湾施設に投資を行い、数十カ国に通信インフラを提供している。
中国はパナマ運河の運営についても強い支配権を握り、アメリカから約150キロしか離れていないキューバに情報収集施設を建設した。中国はブラジルに軍を派遣して合同演習を行い、南極では基地の運用を拡大している。そしておそらく最も重要なことだが、中国産の合成麻薬フェンタニルがメキシコからアメリカに流入し続け、過剰摂取により十数万ものアメリカ人が命を落としている。