最新記事
ウクライナ戦争

朝晩にロシア国歌を斉唱、残りの時間は「拷問」だった...解放されたアゾフ大隊兵が語る【捕虜生活の実態】

THE STORY OF KIRILL, A RUSSIAN PRISONER

2024年12月5日(木)14時21分
尾崎孝史(映像制作者、写真家)

newsweekjp20241204091519-f370d3683c4a53dc6b12b21c2d2ecef31b06e564.jpg

ウクライナ西部に避難していたときのアンナと長男スビャットスラフ TAKASHI OZAKI

2週間後の5月16日、マリウポリで抵抗を続けていた部隊がロシア軍に降伏した。親ロシア派のテレビ局が流す映像に製鉄所から出てくるウクライナ兵の列が映った。その中に松葉杖をついている若い兵士がいた。アンナの夫、キリルだった。

「映像を見て夫だとすぐに分かりました。彼の脚には爆弾の破片が残っているので、十分な治療が受けられるか心配です」


キリルの携帯電話はロシア軍に没収され、2人は連絡が取れなくなった。欧米メディアで夫が兵士だと報道されたことで、母子に対する拉致の危険が高まった。空爆の被害がウクライナ全土に広がり、アンナは息子の安全を確保する必要も感じていた。そして7月、国外脱出を決めた。

キリルら投降した兵士が連行されたのは、ロシア軍が支配するドネツク州のオレニフカ村近郊だ。ロシア軍はそれまで使われていなかった120番流刑地を、ウクライナ人の尋問や拘留をする拘置所にしていた。キリルは入所後のことをこう話す。

「取り調べに当たるロシア連邦保安局(FSB)の調査員は私のIDカードを見てアゾフ大隊の兵士だと確認した。われわれ全員が自らの意思で入隊した志願兵ということで、ひどい扱いを受けることになった」

6時起床。ロシア国歌を斉唱して朝食。12時昼食。18時夕食。22時にロシア国歌を斉唱して消灯。トイレは3分以内。許された運動は歩行のみで、211人の捕虜は一人ずつ廊下に出された。残りの時間に行われたのが拷問だった。

※第2回:捕虜の80%が性的虐待の被害に...爪に針を刺し、犬に噛みつかせるロシア軍による「地獄の拷問」 に続く

20250225issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年2月25日号(2月18日発売)は「ウクライナが停戦する日」特集。プーチンとゼレンスキーがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争は本当に終わるのか

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中