最新記事
民主主義

日本の総選挙とアメリカ大統領選、太平洋を挟んだ2つの国の「小さな正義」を考える

When The Justice Works

2024年11月29日(金)15時53分
江藤洋一(弁護士)
正義

日米で「正義」が問われている icedmocha-shutterstock

<「小さな正義」が裏金問題に鉄槌を下した日本、「小さな正義」が広がらずトランプが再選したアメリカ――ベテラン弁護士が日米両国の選挙から考える「正義のポテンシャル」>

民主主義社会は、民意の争奪というパワーゲームになりがちだ。ただ、その民意がどのように形成されどのように表現されるかは、人や国によって異なる。

日本では自由民主党が総選挙において大敗し(それでも相対多数を維持した)、太平洋の向う側のアメリカでは大統領選挙においてトランプ氏が大勝した。筆者は政治評論家でも選挙分析家でもないが、そのいずれとも異なる視点からこの2つの選挙をひもといてみたい。その際カギになるのは、17世紀のフランスの思想家ブレーズ・パスカルの次に掲げることばだ。

「力のない正義は無力だが、正義のない力は圧政である。......したがって、正義と力をともに置かなければならない」

筆者がこの言葉に出会ったのは50年以上昔の話だが、未だ新鮮味を失わず、それどころか昨今の内外の政治情勢に鑑みると、むしろ深く強く胸に刺さるものがある。何ら具体性のない言葉だが、それだけに時を超えた通有性があり、かつ昨今のものの捉え方の通念となりつつある、細分化と数値化を乗り越える説得力を感じさせる。

正義の内容が不明確だという批判にあらかじめ応えておきたい。それを社会的公正や平等に置き換えても、不明確さが払拭できるわけではない。私たちは正義についていろいろと考えるが、ただ一つ確かなことは、生身の私たちが現実の中で正義を考えるしかない、ということだろう。それは直感的判断かもしれないが、だからと言って間違いというわけのものでもない。それはまた、政治家諸氏(立法者)や裁判所が独占するものでもない。

パスカルの言葉について、くだくだしい解釈の必要はないが、前段のトートロギー(同義反復)は、何より(政治的)力とは別に正義が存在するということ、無力であろうが何であろうがとにかく正義が存在するということに意味を持たせている。だが、その正義の存在の形式は様々だ。わが国の総選挙とアメリカの大統領選挙が、図らずものその形式の違いを見せつけてくれた。

また、「法の支配」や「法治主義」が行きわたった現代の文明国家においては、やや粗っぽくいってしまえば、(政治的)力と正義は一応ともに置かれているとも言える。だが、そのように共に置かれた力と正義の関係性は、一様ではない。力は正義を凌駕し圧倒することがある。正義が力より高いところに位置することもある。法学者は、これを司法(が正義を体現していると仮定して)の優位と呼ぶこともある。

試写会
カンヌ国際映画祭受賞作『聖なるイチジクの種』独占試写会 50名様ご招待
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    大麻は脳にどのような影響を及ぼすのか...? 高濃度の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中