最新記事
荒川河畔の「原住民」⑨

冬の寒さ、夏の暑さ、亡くなる時、欲求不満解消...ホームレス生活のリアリティー

2024年10月30日(水)19時15分
文・写真:趙海成
荒川河川敷のホームレス

多くのホームレスの中でも、桂さん(左)と斉藤さん(右。共に仮名)は人生を楽しんでいる2人

<河川敷に住むホームレスは、最低限の衣食住を確保することに精一杯だ。彼らはどのように生を全うし、生涯を終えるのか。在日中国人ジャーナリストの趙海成氏は彼らと交流し、実情を聞いた。連載ルポ第9話>

※本連載の第5話から第8話は、取材対象者からの申し入れにより、記事を削除しました(2024年10月22日)。取材時に記事掲載についての意思確認が不十分でした。ご本人ならびに関係者のみなさまにお詫びします。


斉藤さん(仮名)がとても面白いことを話してくれた。彼は荒川大橋のほうに引っ越してくる前、板橋区の戸田橋の下に住んでいたが、その時の話だ。


ある日、警察官が橋のたもとで通行人を調べているのに出くわした。近くで何かあったばかりだったのだろう。

警察官は彼に「あなたはどこに住んでいますか。住所は?」と尋ねた。

斉藤さんは「私はこの橋の下に住んでいる」と言った。

「橋の下とはどこですか?」警察官はさらに質問をした。

「橋の下は橋の下だよ」斉藤さんは答えた。

「具体的な住所を教えてください!」警察官は少しいらいらしていた。

斉藤さんは仕方なく、「板橋区戸田橋下ゼロ番地」と口にした。

警察官は聞いて、まず呆然とした。たぶん心の中でこうつぶやいたのだろう。「この一帯で何年も公務をしていて、そんな場所があるとは聞いたことがない──」

斉藤さんがいたずらっぽく笑う様子を見て、警察官はやっと、自分がこの定住所のないホームレスに翻弄されていることを知ったようだ。しかし、彼は怒ることはなく、思わず笑ってしまった。

「分かった。行ってくれ」警察官は言った。

斉藤さんはバイバイと言って、その場を去ったという。

彼の話を聞いて、私も桂さん(仮名)も大笑いした。

試写会
カンヌ国際映画祭受賞作『聖なるイチジクの種』独占試写会 50名様ご招待
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    大麻は脳にどのような影響を及ぼすのか...? 高濃度の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中