安倍晋三に負け戦を挑んだ石破茂の復活劇
To Build a Post-Abe LDP
一方で、日本が優位に立つためだけに権力を争うことや、東アジアの軍事バランスばかり考えることを、石破はよしとしない。軍事力の追求と並行して、中国や韓国など地域の大国と外交および通商関係を築くことの重要性を強調しており、戦時中の過去について日本がより謙虚になることを求めている。
こうした理念の違いは9月の総裁選でもあらわになった。石破は「国民の安全と安全保障」を強調する政策を掲げ、高市は「総合的な国力の強化」をスローガンに挙げた。
この2つの政策の間には、戦後の日本政治の最も根強い亀裂がいくつか存在する。そうした亀裂は21世紀の日本において、相対的な衰退を容認して順応しようとする政府か、あるいはそれを覆すために途方もない手段とリスクを取る政府かという違いになる。
だからこそ石破の前途は楽観できない。安倍の思想とその後継者たちは、安倍が12年から22年に死去するまで支配した党内で、今も非常に大きな力を持つ。石破の勝利は、旧安倍派の最終的な敗北を意味するものでは決してない。高市は既に次の総裁選に向けて準備しているだろう。
もっとも、今回の結果は石破の「反安倍」ビジョンと高市の「親安倍」ビジョンの勝負というより、有権者の根強い石破人気が自分の議席を守ってくれるだろうと考えた選挙に弱い議員たちの日和見的な賭けであり、石破は高市より自分のレガシーを守るだろうという岸田文雄前首相の賭けだったのかもしれない。