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米大統領「オクトーバー・サプライズ」、どこまで結果に影響? 19世紀から続く「歴史」からひも解く

ARE OCTOBER SURPRISES OVERBLOWN?

2024年10月16日(水)18時12分
ジュリアン・ゼリザー(米プリンストン大学教授〔政治史〕)
米大統領選の直前に起きるオクトーバー・サプライズ

1840年の米大統領選を描いた風刺画。10月に検察がホイッグ党幹部らを選挙不正で起訴すると発表したが、同党候補のハリソン(右端)は民主党の現職バン・ビューレン(荷車の上の人物)に勝ち、ワシントンから追いやった MPI/GETTY IMAGES

<19世紀に起きた「選挙不正」の暴露から、70年代のベトナム和平宣言まで......。「オクトーバー・サプライズ」はアメリカ大統領選と共にあったが>

米大統領選の「オクトーバー・サプライズ」の歴史は、選挙そのものと同じくらい古い。候補者は200年以上前から、投票日の前月である10月に選挙戦を根本から変える大事件が起こることを恐れてきた。

たいていの場合、そんな出来事が起こるわけではない。それでも各陣営は、大統領選の最終盤の大事件を常に警戒し続けてきた。


この10月は、大統領選を揺るがすような大事件が既にいくつも起きている。中東の戦争は激しさを増し、イスラエルはパレスチナ自治区ガザでの戦いだけでなくレバノンやイランとも戦闘を繰り広げている。

国内では特別検察官の報告書が公開され、共和党の大統領候補であるドナルド・トランプ前大統領が2020年大統領選の結果を覆そうと画策したことの詳細が明らかになった。

アメリカの有権者は二極化されており、どんなことがあっても選挙の流れが根本から変わることはめったにないといわれる。10月の残りの日々にもっと衝撃的な事件が起これば、この認識が正しいかどうかが再び試されることになる。

最も古いオクトーバー・サプライズの1つは1840年10月、検察がホイッグ党の関係者らを選挙不正で起訴すると発表したことだ。しかし同党の大統領候補ウィリアム・ハリソンは打撃を受けず、現職大統領で民主党候補のマーティン・バン・ビューレンに勝利した。

1880年の大統領選では、共和党候補ジェームズ・ガーフィールドがH・L・モリーという人物に宛てた手紙とされるものが新聞に掲載された。彼はこの中で、中国からの移民がアメリカ人の仕事を奪っているとする「中国問題」を一蹴。雇用主が「最も安い労働力を買う」ことができるようにすべきだと書いていた。

手紙は偽造されたものだったが、労働者が中国からの移民に強い敵意を抱くカリフォルニア州でガーフィールドの支持率が下落。彼はカリフォルニア州では民主党候補に敗れたものの、選挙には勝利した。

ニクソンが選挙のためにつぶしたベトナム和平

20世紀に入って1964年の大統領選直前の10月7日には、民主党候補のリンドン・ジョンソン大統領の首席補佐官ウォルター・ジェンキンズが、首都ワシントンのYMCAで男性と「風紀を乱す行為」に及んだとして逮捕・起訴された。

共和党候補のバリー・ゴールドウォーターは記者団の質問に対し、オフレコでこう答えた。「こんなことをして選挙に勝つつもりなのか? 共産主義者や同性愛者のやりそうなことだな」

ジョンソンは、親友でもあるジェンキンズは神経症にかかっているなどとして火消しに奔走した。ソ連の最高指導者ニキータ・フルシチョフの失脚など国外の大事件が注目を集めたこともあり、このサプライズの衝撃は弱まっていった。

オクトーバー・サプライズを意図的な選挙戦略とする流れは、68年の大統領選で勢いを増した。共和党は現職のジョンソンが泥沼化したベトナム戦争について何らかの打開策を打ち出せば、共和党候補のリチャード・ニクソンは民主党候補のヒューバート・ハンフリー副大統領に敗れるかもしれないと警戒していた。

10月31日、共和党側の不安は現実のものとなる。ジョンソンが北ベトナムへの空爆を一時停止すると発表したのだ。

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米大統領選を揺るがす「オクトーバー・サプライズ」。最後に勝つのはハリスか? トランプか?

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