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荒川河畔の「原住民」⑦

東京に逃げ、ホームレスになった親子。母は時々デパートに行って「ある作品」を作っていた

2024年10月9日(水)17時50分
文・写真:趙海成

台風が近づき、私は息子に期待していたのだが

5月中旬、日本では台風2号が上陸するとの予報が出て、住民に防災準備の注意喚起がなされた。当時私はお母さんの状況を考えたが、特に心配はしていなかった。彼女の話では、もう息子と相談して、近いうちに新しいテントを買って、川から少し離れた空き地に移るつもりがあるとのことだった。

私はお母さんに「あなたが引っ越すとき、手伝ってあげましょう」と言った。

彼女は「息子と二人でできることなので、人に迷惑をかけたくない」と言ってくれた。

そう言われても、私は彼女に携帯電話の番号を残して、用事があるときに公衆電話で私に連絡するように言った。

5月24日、その日はお母さんの80歳の誕生日で、私は果物とケーキを持って彼女のためにお祝いに行った。

その時、お母さんは私に、息子が近いうちにテントを選んで購入し、ここに建てに来るのだと言った。

私はそれを聞いて安心した。そして、何か実用的なものを母さんの引っ越し祝いとしてあげたいと思った。

5月30日の夕方、東京では雨が降り始め、31日は一日中降った。6月1日になると、雨はますます激しくなった。

私の住んでいる家のドアや窓は、嵐に打たれてパタパタと音を立てた。窓が閉まっていないので、窓側の床が濡れていた。

この景色を見て、私は自問自答した。

「お母さんの所は大丈夫だろうか。彼女の息子は事前にこの台風の予報を聞いていたはずだし、早めにお母さんのために適切な準備をしていたはずだ」

しかし、その後の実際の状況は私をがっかりさせた。

私の「べき」はすべて「思い込み」にすぎない。良く言えば自己慰め、悪く言えば自己欺瞞だ。

実は私は知っている。お母さんは携帯電話を持っていない。息子は携帯電話を持っているとはいえ、他の人に貸してもらっているそうだ。

お母さんと息子にとって、連絡を取り合うのは骨が折れることだ。荒川の近くに公衆電話ボックスはない。お母さんが息子に電話するには、3キロ先の赤羽商店街まで行かなければならない。

そして電話をかけても、息子が出るとは限らない。電話に出ても、彼を呼んですぐ来られるわけではない。

息子が来ることができても、交通手段は自転車だけで、お母さんの所までは少なくとも1時間半かかる。だから、嵐が襲ってきたとき、この息子が戻ってきて自分のお母さんを救うことを期待するのは、中国語で言う「痴人说梦」、まるで愚かな人が語る夢物語だ。

お母さんのテントから少し離れた場所に住んでいるホームレスの桂さんは、4年前に恐ろしい洪水を経験した。

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