韓国、日本企業へ徴用工賠償を命じる判決続々と 良好な日韓関係に水差す事態の真相は?
請求権の消滅時効めぐり分かれる見解
5件の訴訟はいずれも消滅時効が争点になった。韓国の民法では損害賠償請求権の消滅時効は不法行為が行われた日から10年、不法行為を認知した日から3年とされており、請求権を行使できない特別な「障害理由」が認められる場合、障害理由が解消された日から3年と定められている。
日本政府は1965年に交わした日韓請求権協定で解決済みという立場で、裁判所も2003年に最高裁が下した「日韓請求権協定で解決済み」という判決を判例としている。
韓国政府も2009年、元労働者の未払い賃金は請求権協定で解決済みという見解を示したが、大法院(最高裁)が2012年5月23日、政府見解に則った判決を棄却し、2018年10月30日には新日鉄住金(現・日本製鉄)に対して原告4人に1人あたり1億ウォンの損害賠償の支払いを命じる判決を下している。韓国法曹界は請求権を行使できない障害理由の解消を2012年5月とするか、2018年10月とするかで分かれている。
韓国地裁は2021年、5件の提訴をいずれも棄却した。2012年5月に障害理由が解消しており、提訴した時点で時効が成立していたという解釈だった。一方、今年相次いだ二審は2018年10月を時効の起算日とした。表面上は解釈の違いだが、背景に実効性がある。
韓国大法院が2018年10月、日本製鉄(旧新日鉄住金)に対して賠償の支払いを命じる判決を下し、翌11月、三菱重工業に対して賠償金支払いを命じたが、両社は日韓請求権協定で解決済みとする日本政府の立場に従って支払を拒絶した。
被告が支払い判決を履行しない場合、裁判所は原告の要請にもとづいて被告の財産を差押え、現金化して原告に弁済する。原告の要請を受けた裁判所は日本製鉄と三菱重工業の資産差押えに着手した。
資産差し押さえに3つの壁
日本製鉄は韓国鉄鋼大手のポスコなど業務提携に伴う株式を保有しており、地裁は差押えに着手したが、3つの壁に阻まれた。1つは現金化をめぐる裁判。裁判所による資産の売却公告に対して日本企業が異議申し立てすると裁判で争うことになる。最高裁まで進むと最短でも5年から10年近くかかることになる。2つ目は提携に伴う持株処分は提携に影響を及ぼすなど韓国企業が支障をきたす恐れがあること。3つ目は日本政府の反発と対抗措置に対する懸念である。三菱重工業については同社が韓国企業に販売した商品代金の差押えに着手したが、韓国企業が取引相手は三菱重工業ではないと述べたため断念した。
こうして日本企業敗訴の判決が続くたび、地裁には実行できない弁済業務が蓄積されることになる。地裁は消滅時効を事由に元労働者の訴えを棄却したが、23年3月に尹錫悦政権が徴用工裁判の判決にもとづく賠償金を政府傘下の「日帝強制動員被害者支援財団」が弁済すると発表。以後、裁判所は元労働者の訴えを認める判決を繰り出している。
いずれにしても時効によって今後、新たな訴訟が提起されることはなく、賠償判決は韓国側の財団が負うことで、元労働者問題は韓国内で完結することになる。こうした形で問題があいまいなままに終結させられることは、日韓関係強化を図りたい尹政権と石破政権にとって好材料といえるだろう。