最新記事
拒否権

国連安保理の機能不全を招いた「拒否権システム」を改革する現実策

A LONG OVERDUE REFORM PLAN

2024年10月8日(火)20時51分
魏尚進(ウエイ・シャンチン、コロンビア大学経営大学院教授、元アジア開発銀行チーフエコノミスト)
国連安保理

国際社会の意向に反する拒否権行使に不満が高まっている SPENCER PLATT/GETTY IMAGES

第79回国連総会が9月10日に開会し、同月下旬には各国首脳らが集う一般討論演説が実施されたなか、国連安全保障理事会の改革が大きな議題として浮上した。重要な問いは、常任理事国数を拡大すべきかどうかだ。

拡大賛成派は、インドやブラジル、日本が常任理事国入りすれば、安保理は加盟国の代表としてよりふさわしい存在になると主張する。一方、反対派の警告によれば、拒否権を持つ常任理事国の増加は安保理の機能を損ない、今以上に無力化してしまう。さらに、現在の常任理事国5カ国の1つであるフランスは、人口規模が世界23位だ。インド、ブラジル、日本のほか、ナイジェリア、ドイツ、メキシコやトルコなど、常任理事国でない18カ国が人口でフランスを上回っている。常任理事国の増加に踏み切れば、さらなる拡大を求める声が上がるだろう。


どちらの意見もうなずけるが、改革は二者択一とは限らない。安保理体制や拒否権システムを見直せば、代表性を高めながら、より効果的な安保理を実現できる。

戦争や武力衝突が相次ぐ現在、安保理改革は喫緊の課題だ。常任理事国の拒否権行使は、国際的危機における国連の行動能力を著しく阻害している。国際社会が介入を圧倒的に支持する場合でさえ、そうだ。

ウクライナでの戦争がいい例だ。2022年2月のウクライナ侵攻を受けた国連決議案に、常任理事国のロシアは何度も拒否権を行使している。EUとアメリカは独自の対ロシア制裁を発動したものの、その他の国々の利害関係を考慮しない措置が多い。国連のお墨付きがないせいで、対ロ制裁の効果は大幅に損なわれている。

拒否権システムの原点は、第2次大戦後のリアルポリティック(現実政治)にある。1945年10月に国連が設立された当時、ソ連はアメリカ主導の多数決を危惧し、拒否権が必要だと主張。その後、アメリカも同じ「特権」を要求した。

69年までの拒否権行使回数は計115回で、90%以上がソ連によるものだった。アメリカは、初めて拒否権を行使した70年以降の行使回数が最も多い国になっている。その大半は、イスラエルに関する決議案だ。

現代では、国際社会で主流の意見に反する形で、拒否権が行使される事例が多い。この食い違いが不満を引き起こし、拒否権システムは不公正で非倫理的で、時代遅れだとの見方が強まる一方だ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    注目を集めた「ロサンゼルス山火事」映像...空に広が…
  • 10
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中