最新記事
拒否権

国連安保理の機能不全を招いた「拒否権システム」を改革する現実策

A LONG OVERDUE REFORM PLAN

2024年10月8日(火)20時51分
魏尚進(ウエイ・シャンチン、コロンビア大学経営大学院教授、元アジア開発銀行チーフエコノミスト)

安保理は既に、現行のガバナンス体制によって、権限遂行能力や国際平和を維持する能力をむしばまれている。ならば、常任理事国の拡大は逆効果に思えなくもない。安保理の代表性向上と効力のバランスを取るには、常任理事国を増やすと同時に、意義ある拒否権システム改革が必要だ。

例えば、安保理を15カ国構成から20カ国構成(そのうち10カ国を常任理事国とする)に変更し、圧倒的多数の支持があれば、常任理事国の拒否権を覆す権限を認めてはどうか。これなら、さらなる行き詰まりを生み出すことなく、拒否権の効力を維持できるだろう。新規の常任理事国がシステムを悪用する事態を防ぐため、拒否権なしの常任理事国という枠を設けることもできる。


確かに、大国の特権に歯止めをかけるのは困難な課題だ。だが条件付きの拒否権でも、常任理事国は過度なまでの影響力を行使できるのだから、新体制は順応不可能なものではない。さらに、拒否権を覆す権限の付与は国連の正統性を強化し、ひいては常任理事国にとって利益になる。

安保理の代表性向上と効力の強化は相反しない。常任理事国を増やし、拒否権を制約するという2つの改革を同時に実行すれば、よりよい世界が実現するはずだ。

©Project Syndicate


newsweekjp20241008020832-2ea65f7bb3aaabffc87324375bcb02c28ae9723b.jpg魏尚進(ウエイ・シャンチン)
SHANG-JIN WEI
コロンビア大学経営大学院教授(金融学・経済学)。アジア開発銀行(ADB)でチーフエコノミスト、世界銀行では汚職対策の政策・研究のアドバイザーなどを歴任した。

20250408issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年4月8日号(4月1日発売)は「引きこもるアメリカ」特集。トランプ外交で見捨てられた欧州。プーチンの全面攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

カナダ首相、米関税に対抗措置講じると表明 3日にも

ビジネス

米、中国からの小包関税免除廃止 トランプ氏が大統領

ワールド

トランプ氏支持率2期目で最低の43%、関税や情報管

ワールド

日本の相互関税24%、トランプ氏コメに言及 安倍元
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台になった遺跡で、映画そっくりの「聖杯」が発掘される
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 7
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 8
    博士課程の奨学金受給者の約4割が留学生、問題は日…
  • 9
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 10
    トランプ政権でついに「内ゲバ」が始まる...シグナル…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 7
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 8
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 9
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中