最新記事
ユダヤ

世界に離散、大富豪も多い...「ユダヤ」とは一体何なのか? 聖書と歴史から読み解けば世界の「今」が見えてくる

THE PROMISED LAND

2024年9月12日(木)15時19分
嶋田英晴(同志社大学一神教学際研究センター共同研究員)

ゴラン高原のキブツ(集団農場)で農作物を収穫する人たち

ゴラン高原のキブツ(集団農場)で農作物を収穫する人たち ESAIAS BAITELーGAMMA-RAPHO/GETTY IMAGES

なぜユダヤ人は離散したのか

紀元前64年にはローマがセレウコス朝を滅ぼし、やがてユダヤはローマの属州とされてユダヤの民は圧政下に置かれた。

こうした状況において、古くからその出現が期待されていた理想の王であるメシア(油を注がれた者=救世主)の到来が強く待望され、この頃登場したナザレのイエスこそメシアであると見なす人々は後にユダヤ人とはたもとを分かっていく。


紀元66年にはユダヤ人迫害を機に第1次ユダヤ戦争(対ローマ戦争)が勃発し、激闘の末、70年にローマ軍によってエルサレムの第二神殿が破壊された。

この頃、ヘブライ語聖書の正典化が進み、ラビ(「教師」と呼ばれる俗人の律法学者)の称号を持つ賢者が台頭し、ユダヤ教は祭政一致から離脱して口伝律法(くでんりっぽう)の整備と祈りや学習の場所としてのシナゴーグ(礼拝・集会所)の利用が顕著になった。

一方ローマに対する不満から、ついに132年に第2次ユダヤ戦争が勃発し、反乱鎮圧後にエルサレムはユダヤ人の出入りが禁止された。こうしてユダヤ人は本格的に世界中へと離散した(ディアスポラ)。

世界のユダヤ人人口

共同体を維持できた理由

神殿を失った離散のユダヤ社会では、200年頃、ダビデ王の子孫でユダヤ社会の指導者でもあったラビ・ユダ・ハナスィが生活原理の規範となる口伝律法であるミシュナを編纂した。

これを基にラビたちの法解釈が連綿と積み重ねられ、やがて4世紀末および5世紀末にそれぞれ口伝律法のパレスチナ・タルムード、バビロニア・タルムードが結集された。

こうして、ユダヤ社会はかつての神殿祭祀を脱し、ラビたちの指導による聖書(成文律法)やタルムード(口伝律法)の研究解釈を中心とするものへと変質していった。

このため、中世を経て近代に至るまでのユダヤ教はラビ・ユダヤ教と称される。ラビ・ユダヤ教の特徴は、2つのトーラー(律法)という信念である。

すなわち神の意志は、成文トーラー(ヘブライ語聖書)と口伝トーラーによって二重にモーセに啓示されたとされ、成文トーラーに拘束されながらも、口伝トーラーによってそれを柔軟に解釈することで、環境の異なる新しい事態にも対処できるようにした。

ディアスポラのユダヤ人は、キリスト教国家やイスラム国家において、寄留民として独自の共同体を形成し、ユダヤの律法と宗教的伝統を守り抜くことにより、移住地の社会に溶け込まず、民族としてのアイデンティティーを保ち続けた。このことが、各地でユダヤ人が偏見と迫害にさらされる大きな要因の1つとなった。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

英消費者信頼感、11月は3カ月ぶり高水準 消費意欲

ワールド

トランプ氏、米学校選択制を拡大へ 私学奨学金への税

ワールド

ブラジル前大統領らにクーデター計画容疑、連邦警察が

ビジネス

カナダ、63億加ドルの物価高対策発表 25年総選挙
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 8
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中