ミャンマー内戦に巻き込まれ、強制徴兵までされるロヒンギャの惨状
AN OVERLOOKED TRAGEDY
戦場に送り込まれる難民
もう1つロヒンギャを苦しめているのが、強制徴兵だ。ミャンマーでは軍事クーデター以降、民主派や少数民族武装勢力が各地でミャンマー軍と戦っている。この戦線拡大による兵力不足を補うため、ミャンマー軍は今年2月に徴兵制開始を発表した。ラカイン州でも、州内はおろかバングラデシュの難民キャンプでロヒンギャを無理やり徴兵し、前線に動員。AAの兵士は「ミャンマー軍に加担している」という理由でロヒンギャの村を襲っているという。
ロヒンギャへの強制徴兵の実行部隊となっているのが前出のARSAと「ロヒンギャ連帯機構(RSO)」だ。ARSAは13年頃、サウジアラビア育ちのロヒンギャによって設立され、当初は市民権の回復などを目標に掲げていた。
他方、RSOは80年代に結成されたロヒンギャの古参の武装組織だ。90年代初頭にミャンマー軍の掃討作戦に遭った後、最近までその活動が話題に上ることはほぼなかったが、昨年からバングラデシュの難民キャンプ内でARSAと権力抗争をしている。両組織はお互いのメンバーだけでなく、キャンプ内のリーダーや教育者などを殺害したり、身代金目当てに難民を誘拐したりといった事件を相次いで起こしており、現在の実態は「ならず者」に近い。ロヒンギャも自分たちを代表する組織とはつゆほどにも思っておらず、むしろ恐れている。
これまで市民権を認めてこなかったロヒンギャを、なぜ自軍の兵としてミャンマー軍は使うのか。敵であるはずのミャンマー軍のために働くARSAやRSOの動きも不可解だ。だがそもそも彼らに道義心はなく、これまでも正当性より実利を取る戦略を取ってきたと、ミャンマー軍内部の事情に詳しい京都大学の中西嘉宏准教授(比較政治学)は指摘する。
「ラカイン州の戦闘で劣勢に立つミャンマー軍は、(これまで差別の対象にしてきた)ロヒンギャを取り込まなければいけないほど、深刻な兵力不足に陥っているとみられる。一方、ARSAとRSOは『敵(ラカイン人のAA)の敵(ミャンマー軍)は味方』の論理によって軍に協力しているのかもしれないが、金銭や武器など何らかの利益を受け取っている可能性もある」
ARSAとRSOの派閥争いによって、もともと悪かったキャンプ内の治安はさらに悪化している。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の統計によれば、23年に誘拐や殺人といった深刻な事件でロヒンギャ難民が保護を必要としたケースは1857件と、前年の2.8倍に増えた。これに加え、ARSA、RSOによる強制徴兵が、難民をさらなる恐怖に陥れている。
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