米国内でのスパイ摘発が在米中国人社会に波紋...米当局の「時代遅れの対抗手段」
中国政府の工作員として刑事訴追されたリンダ・サン(写真中央) KENT J. EDWARDSーREUTERS
<米司法省、中国政府の工作員としてニューヨーク州元補佐官を起訴...在米中国人社会に広がる不安>
米司法省は9月3日、ニューヨーク州のキャシー・ホークル知事とアンドルー・クオモ前知事の元補佐官リンダ・サンを中国政府の工作員として行動した容疑で刑事訴追したと発表した。
その数週間前には、米当局が2つの別々の事件で、中国国外の民主化グループへのスパイ行為を働いたとして在ニューヨークの中国民主活動家・王書君(ワン・シューチュン)の有罪評決を引き出し、もう1人の唐元隽(タン・ユアンチュン)を起訴した。
この3件の摘発は氷山の一角にすぎない。アメリカは自国内の人権と民主主義を脅かす中国共産党の浸透工作への対応を強化している。
サンの起訴状によれば、被告は2021年から、ニューヨーク州政府での地位を利用して、旧正月を祝うホークルのスピーチから、少数民族ウイグル人に対する中国当局の重大な人権犯罪についての言及を削除するなどしたとされる。
中国共産党は習近平(シー・チンピン)国家主席の下、世界中で大規模な中国のイメージ向上キャンペーンを開始した。深刻な人権侵害の情報を遮断することは、この戦略の重要な一部だ。
私たち米人権擁護団体フリーダム・ハウスは中国共産党と関連組織がアメリカを含む30カ国で行った工作をまとめた22年の調査など、中国当局の世界的な浸透工作の実態を広範囲に記録してきた。その結果、中国は伝統的な民間外交に頼る戦術に加え、強要や汚職の疑いを含む秘密の戦術も数多く展開していることが分かった。
サンの訴追は王や唐と同様、外国代理人登録法(FARA)違反に関わるもの。同法は、外国の組織や団体のために政治活動や支援活動を行う者はその事実を公表し、司法省に登録することを義務付けている。起訴状によると、サンは登録を怠っただけでなく、中国のために働いていた事実を積極的に隠していたという。
検察当局は近年、FARAに基づく中国やその他の外国組織の取り締まりを強化しているが、フリーダム・ハウスの調査によると、まだ不十分だ。国務省がアメリカにおける中国の外交手段の一部と指定したメディア組織の中には、未登録のものもあった。登録済みでも、必要な報告や情報の提出がいいかげんだった。
一方で1938年に制定されたFARAは、時代遅れの規定が批判を浴びてきた。
「外国代理人」「外国責任者」の広すぎる定義は、外国の当局や団体のための合法的活動と違法な活動の区別がつきにくいため、合法的な国際協力や人道支援活動を手がけるNPOに過度な負担をかける可能性がある。