最新記事
気候変動

そもそも「パリ協定」って何?...知っておきたい、世界共通の「2度目標」と「1.5度目標」

2024年9月4日(水)11時10分
池上 彰(ジャーナリスト)
ホッキョクグマ

makabera-pixabay

<「京都議定書」との違い、そしてアメリカの事情が大きく絡む「パリ協定」について>

2040年のあなたは、明るい未来を迎えているだろうか?未来が暗くならないために、今からどう行動していけばいいのか? 『池上彰の未来予測 After 2040』(主婦の友社)の第3章「自然災害編」より一部抜粋。

◇ ◇ ◇


 

1988年に「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」が設立されて以降、気候変動対策、とりわけ温室効果ガス削減への取り組みが、世界的に進められました。92年には国連環境開発会議(地球サミット)が開かれ、「気候変動枠組条約」が作られました。

そして97年の「京都議定書」は、気候変動枠組条約に基づき具体的なルールを決めるというもので、先進国は2020年までの気候変動対策の目標「達成」を義務づけられました。

ただこの京都議定書はあくまで先進国に限ったもので、途上国には義務づけられていなかったため、二酸化炭素排出量で今や世界第1位の中国と3位のインドは、対象外でした。

こうした課題もあり、続く15年の「パリ協定」では参加した187の国や地域すべてに対し、20年以降の温室効果ガス削減目標の「提出」が義務づけられました。ただしあくまで「提出」が義務であって、目標の「達成」については義務づけられませんでした。

目標達成までを義務化すると反発する国があるので、とりあえず努力目標を出してもらうという形にしたのです。

それでは不十分だ、なまぬるいのでは、という意見もありますが、地球全体の問題として開発途上国も含めたすべての参加国が温室効果ガスを減らすための努力目標を掲げたことには、それなりに意義があると思います。

パリ協定で採択された世界共通の長期目標は、「世界的な平均気温上昇を工業化以前に比べて2度より十分低く保つとともに(2度目標)、1.5度に抑える努力を追求すること(1.5度目標)」「今世紀後半に、温室効果ガスの人為的な発生源による排出量と吸収源による除去量との間の均衡を達成すること(カーボンニュートラル)」です。これを踏まえて、各国が努力目標を策定しました。

ただしこの削減目標にも、実はインチキをしている国があります。日本も含めた欧米諸国は、「何年の頃よりも絶対量を減らす」という目標を掲げました。日本は「30年度までに、排出量を13年と比べて26パーセント削減する」としています。

ところがインドと中国は、「30年までに対GDP比で何パーセント減らす」という目標なのです。つまりインドも中国も経済発展が続いていて、30年までGDPは年々増えていく見込みがある。だから対GDP比で削減したとしても、温室効果ガスの絶対量はこれからも年々増える、ということなのです。

温室効果ガスの排出ゼロに向けて、より厳しい削減目標を出すことが世界各国には求められており、さらにその実現が、これからの世界の大きな課題です。また京都「議定書」とパリ「協定」との違いには、アメリカの事情も絡んでいます。

議定書は、調印した国々がそれぞれ議会で批准をしなければ承認されないという、それだけ厳しい条件のものです。

パリ協定を結ぶ際には「パリ議定書」にしようという案もありましたが、それでは当時、アメリカの共和党が議会で反対をして批准できないと見込まれていました。共和党は石油や石炭といった従来型のエネルギーを重視していて、気候変動対策を取らない方針だったからです。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米中古住宅販売、10月は3.4%増の396万戸 

ビジネス

貿易分断化、世界経済の生産に「相当な」損失=ECB

ビジネス

米新規失業保険申請は6000件減の21.3万件、4

ビジネス

ECB、12月にも利下げ余地 段階的な緩和必要=キ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中