【新展開】町長が実は中国人だった?...フィリピンを揺るがす「中国スパイ」疑惑の真相は
The Guo Case
Juergen Nowak-shutterstock
<人身売買の被害者800人以上が救出された強制捜査をきっかけに、アリス・グオ町長と中国系オンラインカジノの不正疑惑が浮上。グオの出自や中国の浸透工作への疑念が広がる中、グオがフィリピンを出国したとわかり──>
「関係者は厳正に処分する」。フィリピンのフェルディナンド・マルコスJr.大統領が、そんな厳しい声明を自らのフェイスブックで発表したのは8月21日。関係者とは、かねてから不正がささやかれていた政治家の国外逃亡を許した政府内の誰か、だ。
渦中の人物は、首都マニラから車で1時間半ほど北にある小さな町バンバンのアリス・グオ町長だ。グオは、バンバンにある中国系オンラインカジノ(POGO)との不正な関係を疑われて、捜査当局、さらには上院の調べを受けている最中だった。
このPOGOが中国の犯罪組織と関係があるとされるほか、グオが実は中国人なのに国籍をごまかしていた疑惑が浮上したことなどから、事件は全国的な注目を集める大スキャンダルに発展していた。
そして今回、グオがひそかにフィリピンから出国していたことが明らかになった。
マルコスの大統領府組織犯罪取締委員会(PAOCC)の発表によると、グオは7月18日にはインドネシア経由でマレーシアに出国。同21日にはシンガポールに移動し、8月18日にシンガポール沖のバタム島(インドネシア領)にたどり着いたとされる。
マルコスは、グオの出国が「わが国の司法制度を傷つけ、国民の信頼を損なう汚職を露呈した」と糾弾。出国を許可した人物を必ず「暴く」と息巻いた。
また、「捜査は既に始まっており、責任者は解任され、法的に認められる最大限の処罰を受けるだろう」と念を押した。「関係者は厳正に処分することを断言する」。さらに大統領府は、グオのパスポートを失効させるよう法務省と外務省に要請した。
町長は中国人だった?
そもそもグオに疑惑が浮上したのは今年2月。違法な事業活動を疑われて強制捜査を受けたバンバンの2つのPOGOが、グオの関係企業が所有する不動産で営業していたのだ。
強制捜査は3月にも行われ、ネット詐欺や人身売買の容疑で9人が逮捕され、詐欺の実行を強要されていたとみられる人身売買の被害者800人以上が救出された。
フィリピン上院も5月に調査に乗り出し、その過程で、グオの出自が詳細に調べられた。その結果、グオが実はフィリピン人ではなく、中国で生まれたグオ・ホアピンという中国人であるとの報告書が提出された。
この調査結果が、POGOは中国による浸透工作の隠れみのなのではないかという、かねてからささやかれてきた疑念に火を付けた。POGOは外国人向けオンラインカジノで、ドゥテルテ前政権下(2016〜22年)で急増していた。