最新記事
ウクライナ情勢

苦悩増すゼレンスキー大統領...戦争は「素人大統領」をどう変えたのか

2024年7月18日(木)20時20分

「軍事指導者」として

もちろん、あらゆる国民がゼレンスキー氏を支持しているわけではない。

ロシアによる侵攻を受けてウクライナ国民が一致団結した2022年には、ゼレンスキー氏の支持率は90%にまで跳ね上がったが、その後は長引く戦争への疲労感や評判の悪い徴兵推進策、声望ある司令官の解任、そしてここ数カ月ロシアが徐々に前進しているという戦況の暗い見通しに足を引っ張られている。


 

ウクライナ民主主義を断固として主張し、既存体制の克服を掲げて選出された大統領が、いまや戒厳令下の国家における支配者となっている。

ゼレンスキー氏の主な政敵は、軍事戦略や戦時下における統治や外交といった問題に関する重要な意思決定から排除されており、一般のウクライナ国民にも、ゼレンスキー氏のチームに権力が集中することへの不安を口にする人は多い。

キーウを拠点とする世論調査会社KIISでエグゼクティブディレクターを務めるアントン・フルシェツキイ氏は、「人々はゼレンスキー氏について、以前のように既得権層に対抗するコメディアン出身の政治家とは見ていない」と語る。「ゼレンスキー氏は軍事指導者というイメージで、彼がかつて口にしていたジョークはすべて過去のものと思われている」

ゼレンスキー氏の支持率は60%前後で安定している。フルシェツキイ氏は、収束の展望が見えないまま戦争が長引くという「全般的に困難な状況を考えれば(支持率は)高い」と説明する。

ウクライナと米ワシントンでゼレンスキー氏と数回会談した米下院外交委員会のマコール委員長(共和党)は、ゼレンスキー氏が人々を鼓舞する戦時中の指導者としての立場に成長したとロイターに述べた。

その過程は、ロシア軍がキーウに迫った侵攻当初、ゼレンスキー氏が西側諸国による避難を拒否した時に始まったという。

「ゼレンスキー氏は常に真剣で、核心を突いてくる」とマコール氏。「ゼレンスキー氏やウクライナの司令官と会った時、欲しい武器のリストを渡されたことを覚えている」

同盟国に対するいら立ち

マコール氏やバイデン米大統領のような支援者はいるものの、昨年10月にイスラエルとハマスの戦闘が始まって以来、ゼレンスキー氏は何とか国際社会の関心をウクライナの苦境に引きつけようと苦心している。

ゼレンスキー氏は西側諸国による支援の強化を繰り返し訴えているが、そこには「ウクライナは民主主義世界をロシアから守るために血を流しているのに」という倫理的な怒りが混ざる場合が多い。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエル、イラン核施設への限定的攻撃をなお検討=

ワールド

米最高裁、ベネズエラ移民の強制送還に一時停止を命令

ビジネス

アングル:保護政策で生産力と競争力低下、ブラジル自

ワールド

焦点:アサド氏逃亡劇の内幕、現金や機密情報を秘密裏
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はどこ? ついに首位交代!
  • 4
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 5
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 6
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 7
    「2つの顔」を持つ白色矮星を新たに発見!磁場が作る…
  • 8
    300マイル走破で足がこうなる...ウルトラランナーの…
  • 9
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 10
    トランプが「核保有国」北朝鮮に超音速爆撃機B1Bを展…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 4
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇…
  • 5
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 6
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 7
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 10
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中