苦悩増すゼレンスキー大統領...戦争は「素人大統領」をどう変えたのか
「軍事指導者」として
もちろん、あらゆる国民がゼレンスキー氏を支持しているわけではない。
ロシアによる侵攻を受けてウクライナ国民が一致団結した2022年には、ゼレンスキー氏の支持率は90%にまで跳ね上がったが、その後は長引く戦争への疲労感や評判の悪い徴兵推進策、声望ある司令官の解任、そしてここ数カ月ロシアが徐々に前進しているという戦況の暗い見通しに足を引っ張られている。
ウクライナ民主主義を断固として主張し、既存体制の克服を掲げて選出された大統領が、いまや戒厳令下の国家における支配者となっている。
ゼレンスキー氏の主な政敵は、軍事戦略や戦時下における統治や外交といった問題に関する重要な意思決定から排除されており、一般のウクライナ国民にも、ゼレンスキー氏のチームに権力が集中することへの不安を口にする人は多い。
キーウを拠点とする世論調査会社KIISでエグゼクティブディレクターを務めるアントン・フルシェツキイ氏は、「人々はゼレンスキー氏について、以前のように既得権層に対抗するコメディアン出身の政治家とは見ていない」と語る。「ゼレンスキー氏は軍事指導者というイメージで、彼がかつて口にしていたジョークはすべて過去のものと思われている」
ゼレンスキー氏の支持率は60%前後で安定している。フルシェツキイ氏は、収束の展望が見えないまま戦争が長引くという「全般的に困難な状況を考えれば(支持率は)高い」と説明する。
ウクライナと米ワシントンでゼレンスキー氏と数回会談した米下院外交委員会のマコール委員長(共和党)は、ゼレンスキー氏が人々を鼓舞する戦時中の指導者としての立場に成長したとロイターに述べた。
その過程は、ロシア軍がキーウに迫った侵攻当初、ゼレンスキー氏が西側諸国による避難を拒否した時に始まったという。
「ゼレンスキー氏は常に真剣で、核心を突いてくる」とマコール氏。「ゼレンスキー氏やウクライナの司令官と会った時、欲しい武器のリストを渡されたことを覚えている」
同盟国に対するいら立ち
マコール氏やバイデン米大統領のような支援者はいるものの、昨年10月にイスラエルとハマスの戦闘が始まって以来、ゼレンスキー氏は何とか国際社会の関心をウクライナの苦境に引きつけようと苦心している。
ゼレンスキー氏は西側諸国による支援の強化を繰り返し訴えているが、そこには「ウクライナは民主主義世界をロシアから守るために血を流しているのに」という倫理的な怒りが混ざる場合が多い。