最新記事
差別

3歳の息子に「KKK」の衣装を...夫を差別主義から救ったのはイスラム教徒との友情

Saved From the Ku Klux Klan

2024年7月12日(金)14時49分
メリッサ・ハンター・バックリー(テネシー州在住)
メリッサ・ハンター・バックリーと2人の子供たち

バックリーは夫のために、そして子供たちのために戦おうと心に決めた MELISSA HUNTER BUCKLEY

<米軍時代のトラウマと喪失感から、白人至上主義団体にどっぷり漬かっていた夫。夫のために、家族のために戦う決意をした妻は──>

2015年春のある日、夫のクリスの提案で、クリスの友達グループのバーベキューに参加することになった。みんなでホットドッグを頰張り、子供たちが元気よく遊び......そんな時間を想像していた。

ところが、そこにいたのは、白人至上主義団体KKK(クー・クラックス・クラン)の独特の衣装に身を包んだ大勢の男たちだった。それはKKKの集会だったのだ。


クリスはこの日、3歳の息子のためにKKKの衣装を用意していた。驚愕のあまり、心臓が飛び出しそうになった。自分の夫が過激な差別主義者の団体に加わり、しかも幼い息子を洗脳しようとしているなんて思ってもいなかった。

クリスはこの1年ほど前からKKKに加わっていたのだ。原因はいくつかあった。一つは、米軍時代の軍用車両の事故をきっかけに鎮痛剤の依存症になったこと。依存症のせいで私たちは住む家を失い、ホームレスの収容施設で暮らした時期もあった。

米軍を辞めて同僚たちとの戦友意識を味わえなくなったこと、そしてアフガニスタンで親友を亡くしたことの喪失感にも苦しめられていた。クリスはKKKで仲間との友情めいたものを感じていたのだ。

子供たちをKKKの人種差別主義と暴力に近づけることは断じて避けたかった。けれども、クリスを見捨てることもできなかった。夫のために、家族のために戦おうと思った。

「愛する人に差別主義者のグループをやめさせる方法」をネット検索して知ったのが、アーノ・ミケイリスという人物だった。元ネオナチで、今は若者を過激思想から脱却させるために活動している。

クリスは最初嫌がったが、最終的にアーノと会うことに同意した。16年夏のことだ。面談を続けるうちにクリスはKKKを離れ、薬物依存から脱し、つらい過去と共存できるようになった。

18年のある日、アーノはクリスに、ヘバル・モハメド・ケリという友人と会うよう勧めた。ヘバルは著名な循環器科医で、難民としてアメリカにやって来たクルド系シリア人のイスラム教徒だ。

文化を越えた友情の力

クリスはこの提案に激しく抵抗した。米軍時代に、イスラム教徒を敵と見なすよう訓練されていたためだろう。イスラム教徒という言葉を聞いただけで、顔面蒼白になり、パニック状態になった。アフガニスタンで負った心の傷をずっと抱え続けていたのだ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

韓国最大野党の李代表に逆転無罪判決、大統領選出馬に

ビジネス

独VWの筆頭株主ポルシェSE、投資先の多様化を検討

ビジネス

日産、25年度に新型EV「リーフ」投入 クロスオー

ビジネス

通商政策など不確実性高い、賃金・物価の好循環「ステ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取締役会はマスクCEOを辞めさせろ」
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 5
    「トランプが変えた世界」を30年前に描いていた...あ…
  • 6
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 7
    トランプ批判で入国拒否も?...米空港で広がる「スマ…
  • 8
    【クイズ】アメリカで「ネズミが大量発生している」…
  • 9
    老化を遅らせる食事法...細胞を大掃除する「断続的フ…
  • 10
    「悪循環」中国の飲食店に大倒産時代が到来...デフレ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 7
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「レアアース」の生産量が多…
  • 10
    古代ギリシャの沈没船から発見された世界最古の「コ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中