最新記事
モンゴル

モンゴルで歴史に残る総選挙、憲法改正で「定数が76から126に」史上初の在外投票も、不正疑惑が...

Mongolian Democracy

2024年7月9日(火)17時56分
ボロル・ハジャフ(モンゴル・北東アジア研究者)
モンゴル総選挙が示す民主主義の現在地

定数が拡大した今回選挙への有権者の関心は高かった(首都ウランバートル) B. RENTSENDORJーREUTERS

<総選挙の結果、与党・モンゴル人民党が僅差で過半数を得たが野党も勢力を伸ばし、連立政権の模索へ。若手が多数当選でも、公平性の不足が選挙監視団からは指摘されている>

その日、モンゴル各地で大勢の人が投票所に列を成した。

6月28日に実施された総選挙はモンゴル近代史上、最も重要な選挙の1つだった。憲法改正で、議員定数が76議席から126議席に増えた新たな議会は、民主主義や統治、発展をめぐる政策の策定に重大な役割を果たすことになる。


勝利したのは与党・モンゴル人民党だが、獲得議席数は僅差の過半数である68議席。野党の民主党や人間党、新国民連合が勢力を伸ばし、連立模索の動きが報じられている。

今回の総選挙では、環境や教育、医療など、多様な分野から出馬した人々が当選した。

人民党は若年世代の指導者を候補者に抜擢し、行政府からの立候補者を多数擁立。現職の外相、文化相、デジタル開発・通信相、労働社会保障相がいずれも選出された。

民主党も若者を起用した。史上最年少の27歳で立候補したサルルサン・ツェングンは、国家的課題であるエネルギー改革を掲げて当選。火星研究プロジェクト「Mars Ⅴ」の設立者、スフバートル・エルデネボルドも議会入りした。

巨額の選挙支出も問題

その一方で、選挙過程には取り組むべき問題が見られた。

大規模な選挙監視体制やライブ配信プラットフォームにもかかわらず、ソーシャルメディアでは不正行為が伝えられた。投票締め切りのわずか数時間前には、フェイスブックとX(旧ツイッター)で、現金による賄賂や怪しげな行為の疑惑が浮上。人民党と民主党は、複数県で贈賄を行ったと非難合戦を繰り広げた。

オンラインで拡散したある動画では、人民党現職議員の支持者とみられる人物が、各自にメモが記された有権者氏名リストを手にした姿が確認できる。これは、組織的な不正選挙が仕組まれていた証拠だという声が上がった。

新国民連合のニャムタイシル・ノムトイバヤル代表は、人民党が選挙運動を妨害したと声明で発表。一例として、新国民連合候補者の選挙戦に中国人労働者300人が動員されているとのフェイクニュースを拡散したと非難した。

ノムトイバヤルは当選したが、その政治的野心には不安も付きまとう。モンゴル鉱業大手創業者の長男であり、利益相反の可能性があるからだ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米2月総合PMI、1年5カ月ぶり低水準 トランプ政

ワールド

ロシア、ウクライナ復興に凍結資産活用で合意も 和平

ビジネス

AIが投資家の反応加速、政策伝達への影響不明=ジェ

ワールド

不法移民3.8万人強制送還、トランプ氏就任から1カ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中