欧米の保護主義とEVシフト...中国排除のジレンマ
VACILLATING WEST
独ウォルフスブルクのフォルクスワーゲン本社前で抗議デモを行う活動家(2015年) FABIAN BIMMERーREUTERS
<排ガス不正からEVにシフト、「規制の輸出」と同時に、保護主義も世界に広げたが、中国を排除し切れるか>
グローバルな電気自動車(EV)シフトの旗振り役は、紛れもなくEUだ。少なくともEUはそう自負しており、世界的なルール作りを主導して市場の主導権を握ろうとしてきた。しかし廉価な中国製EVが躍進し、当初の思惑どおりには進んでいないのが現状だ。
EUの執行部局である欧州委員会は2021年7月、「気候変動対策に関する包括的な法案の政策文書」を発表した。その中で、EU域内では35年以降の新車販売を走行時に二酸化炭素などの温室効果ガスを排出しない車両「ゼロエミッション車(ZEV)」に限定する方針を示した。ZEVには燃料電池車(FCV)なども含まれるが、実質的にはEVを意味する。つまり、35年以降に域内で販売される新車をEVに限定するという野心的な目標を定め、世界の自動車市場で主導権を握ろうとした。
EUは、同じくEVシフトを重視する超大国のアメリカと中国をライバル視しており、両国よりも野心的な目標を定め、自らをその旗振り役と位置付けている。なぜ、そこまで野心的なEVシフトを志向するのか。
第1の理由は、脱炭素化目標の実現だ。EUは30年の温室効果ガス排出量について、1990年対比で55%削減することに野心を燃やす。この戦略目標を実現するために、EUはさまざまな経済活動において脱炭素化を推進している。
特に、モビリティー分野は経済活動の中でも温室効果ガスを多く排出するため、脱炭素化が急務であるとみたEUは、走行時に温室効果ガスを排出しないEVの普及に注力してきたのだ。
EUがEVシフトに注力してから、まだ10年も経過していない。もともとEUは、ディーゼルエンジンの高性能化を通じて脱炭素化を進めようとしていた。ヨーロッパでは一般的に燃費の良さを主な理由として、ガソリン車よりもディーゼル車が好まれていたのだった。日本メーカーはハイブリッド車(HV)に脱炭素化の活路を見いだしていたが、EU域内のメーカーはディーゼル車の高性能化を進めることで、温室効果ガスの排出量を減らせると考えたわけだ。
高性能ディーゼル路線の破綻
しかし15年、ドイツのフォルクスワーゲンによる大規模な排ガス不正事件、いわゆる「ディーゼルゲート」が発覚し、ディーゼル車の高性能化による脱炭素化の道は修正を余儀なくされた。フォルクスワーゲンのみならず多くのEUのメーカーが、アメリカの排ガス規制をクリアするために不正なソフトウエアを利用していたことが発覚し、ユーザーのヨーロッパ車離れが世界的に進んだ。