欧米の保護主義とEVシフト...中国排除のジレンマ
VACILLATING WEST
ディーゼルゲートを契機として、EUはディーゼル車の高性能化から自動車の電動化の推進に戦術を転換させた。とはいえHVやプラグイン・ハイブリッド車(PHEV)を容認すれば、日本メーカーのほうが優位だ。そのためEUはEVに活路を見いだし、域内の自動車メーカーがEV生産に注力するよう、そしてユーザーがEVを選択するよう政策的に誘導するようになったのである。
米中という2つの超大国に対峙するため、EUは「規制を輸出」することで、グローバルな影響力を行使しようとする。EU域内での新車販売を35年までにEVに限定すれば、EU向けに自動車を生産する諸外国のメーカーは対応せざるを得ない。さらに、世界的にEVシフトを呼びかけていくことで、EUが目指す方向に世界の動きを誘導することが可能となる。
このようにEUが規制を輸出し、グローバルな政治力を行使することを「ブリュッセル効果」と呼ぶ。過去には個人情報保護、最近ではAI(人工知能)の分野で、EUは同様のアプローチを取っている。
実際、EU発のEVシフトに関してはその深度は各国で異なるものの、グローバルな広がりを見せたという点においては、一定のブリュッセル効果が発揮されたと考えていいだろう。アメリカでは、EUに融和的なバイデン政権がEVシフトの流れに呼応し、アメリカでもEV推進の流れが加速した。こうした欧米の動きを受けて、中国もまたEVシフトに取り組むようになった。
とはいえ、EUが推進するEVシフトが、アメリカにおける保護主義の動きを刺激した点も看過できない。
例えば、バイデン政権はインフレ抑制法に基づき、国産化率が高いEVにのみ購入時の税制優遇を適用することで、EVの完成車メーカーをアメリカに誘致するようになった。バイデン政権の方針は保護主義そのものであり、ブリュッセル効果がネガティブな意味で副作用を生むことを浮き彫りにした。
そして当のEU域内でも、自国優先の保護主義が台頭する事態となっている。例えばフランス政府は、自国製EVに対してより手厚い購入補助金を給付するように、昨年12月補助金制度を改定した。結果的に、EUは域内外において、EVシフトを通じて各国における保護主義の流れを刺激してしまったのだ。