最新記事
EV

欧米の保護主義とEVシフト...中国排除のジレンマ

VACILLATING WEST

2024年7月4日(木)13時30分
土田陽介(三菱UFJリサーチ&コンサルティング 調査部副主任研究員)
独ウォルフスブルクのフォルクスワーゲン本社前で抗議デモを行う活動家(2015年) FABIAN BIMMERーREUTERS

独ウォルフスブルクのフォルクスワーゲン本社前で抗議デモを行う活動家(2015年) FABIAN BIMMERーREUTERS

<排ガス不正からEVにシフト、「規制の輸出」と同時に、保護主義も世界に広げたが、中国を排除し切れるか>

グローバルな電気自動車(EV)シフトの旗振り役は、紛れもなくEUだ。少なくともEUはそう自負しており、世界的なルール作りを主導して市場の主導権を握ろうとしてきた。しかし廉価な中国製EVが躍進し、当初の思惑どおりには進んでいないのが現状だ。

EUの執行部局である欧州委員会は2021年7月、「気候変動対策に関する包括的な法案の政策文書」を発表した。その中で、EU域内では35年以降の新車販売を走行時に二酸化炭素などの温室効果ガスを排出しない車両「ゼロエミッション車(ZEV)」に限定する方針を示した。ZEVには燃料電池車(FCV)なども含まれるが、実質的にはEVを意味する。つまり、35年以降に域内で販売される新車をEVに限定するという野心的な目標を定め、世界の自動車市場で主導権を握ろうとした。


EUは、同じくEVシフトを重視する超大国のアメリカと中国をライバル視しており、両国よりも野心的な目標を定め、自らをその旗振り役と位置付けている。なぜ、そこまで野心的なEVシフトを志向するのか。

第1の理由は、脱炭素化目標の実現だ。EUは30年の温室効果ガス排出量について、1990年対比で55%削減することに野心を燃やす。この戦略目標を実現するために、EUはさまざまな経済活動において脱炭素化を推進している。

特に、モビリティー分野は経済活動の中でも温室効果ガスを多く排出するため、脱炭素化が急務であるとみたEUは、走行時に温室効果ガスを排出しないEVの普及に注力してきたのだ。

EUがEVシフトに注力してから、まだ10年も経過していない。もともとEUは、ディーゼルエンジンの高性能化を通じて脱炭素化を進めようとしていた。ヨーロッパでは一般的に燃費の良さを主な理由として、ガソリン車よりもディーゼル車が好まれていたのだった。日本メーカーはハイブリッド車(HV)に脱炭素化の活路を見いだしていたが、EU域内のメーカーはディーゼル車の高性能化を進めることで、温室効果ガスの排出量を減らせると考えたわけだ。

高性能ディーゼル路線の破綻

しかし15年、ドイツのフォルクスワーゲンによる大規模な排ガス不正事件、いわゆる「ディーゼルゲート」が発覚し、ディーゼル車の高性能化による脱炭素化の道は修正を余儀なくされた。フォルクスワーゲンのみならず多くのEUのメーカーが、アメリカの排ガス規制をクリアするために不正なソフトウエアを利用していたことが発覚し、ユーザーのヨーロッパ車離れが世界的に進んだ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:米大統領選で浮上のチップ非課税案、激戦州

ビジネス

アングル:テスラ運転支援技術、規制すり抜けライドシ

ビジネス

米国株式市場=ダウ最高値、雇用統計受け景気懸念が緩

ワールド

ハリス氏、アラブ系米国人指導者と会談へ 支持回復目
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:大谷の偉業
特集:大谷の偉業
2024年10月 8日号(10/ 1発売)

ドジャース地区優勝と初の「50-50」を達成した大谷翔平をアメリカはどう見たか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ベッツが語る大谷翔平の素顔「ショウは普通の男」「自由がないのは気の毒」「野球は超人的」
  • 2
    アラスカ上空でロシア軍機がF16の後方死角からパッシング、信じられない映像を米軍が公開
  • 3
    NewJeansミンジが涙目 夢をかなえた彼女を待っていたのは......
  • 4
    米軍がウクライナに供与する滑空爆弾「JSOW」はロシ…
  • 5
    借金と少子高齢化と買い控え......「デフレ三重苦」…
  • 6
    野原の至る所で黒煙...撃退された「大隊規模」のロシ…
  • 7
    羽生結弦がいま「能登に伝えたい」思い...被災地支援…
  • 8
    【独占インタビュー】ロバーツ監督が目撃、大谷翔平…
  • 9
    オアシス再結成で露わになる搾取...「ダイナミック・…
  • 10
    大谷翔平と愛犬デコピンのバッテリーに球場は大歓声…
  • 1
    ベッツが語る大谷翔平の素顔「ショウは普通の男」「自由がないのは気の毒」「野球は超人的」
  • 2
    ウクライナに供与したF16がまた墜落?活躍する姿はどこに
  • 3
    ウクライナ軍、ドローンに続く「新兵器」と期待する「ロボット犬」を戦場に投入...活動映像を公開
  • 4
    エコ意識が高過ぎ?...キャサリン妃の「予想外ファッ…
  • 5
    アラスカ上空でロシア軍機がF16の後方死角からパッシ…
  • 6
    【独占インタビュー】ロバーツ監督が目撃、大谷翔平…
  • 7
    漫画、アニメの「次」のコンテンツは中国もうらやむ…
  • 8
    大谷翔平と愛犬デコピンのバッテリーに球場は大歓声…
  • 9
    NewJeansミンジが涙目 夢をかなえた彼女を待ってい…
  • 10
    米軍がウクライナに供与する滑空爆弾「JSOW」はロシ…
  • 1
    「LINE交換」 を断りたいときに何と答えますか? 銀座のママが説くスマートな断り方
  • 2
    ベッツが語る大谷翔平の素顔「ショウは普通の男」「自由がないのは気の毒」「野球は超人的」
  • 3
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレイグの新髪型が賛否両論...イメチェンの理由は?
  • 4
    「もはや手に負えない」「こんなに早く成長するとは.…
  • 5
    ウクライナに供与したF16がまた墜落?活躍する姿はど…
  • 6
    漫画、アニメの「次」のコンテンツは中国もうらやむ…
  • 7
    森ごと焼き尽くす...ウクライナの「火炎放射ドローン…
  • 8
    国立西洋美術館『モネ 睡蓮のとき』 鑑賞チケット5組…
  • 9
    北朝鮮、泣き叫ぶ女子高生の悲嘆...残酷すぎる「緩慢…
  • 10
    ウクライナ軍、ドローンに続く「新兵器」と期待する…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中