最新記事
中国

中国が鳴り物入りで開いた3中全会は、壮大な「ゴミ時間」だった

XI’S “GARBAGE TIME”

2024年7月31日(水)17時05分
練乙錚(リアン・イーゼン、経済学者)
中国経済

空疎な会議に終わった「3中全会」での習近平(中央、7月18日) XINHUA/AFLO

<新政権の経済対策を話し合うはずの中国共産党の重要会議「3中全会」が一向に開かれず、開かれないことがニュースになる奇妙な状況が続いていた。先日ようやく開催に漕ぎつけたが、その内容は矛盾だらけ。習近平はどうすればいいか途方に暮れているようだ>

イソップ寓話に「山のお産」という話がある。巨大な山が産気づいてさんざんうめき声を上げていたが、産まれてきたのは小さなネズミ1匹だけだった、という話だ。7月15~18日に行われた中国共産党の重要会議「3中全会」(第20期中央委員会第3回全体会議)は、この寓話さながらの拍子抜けの結果に終わった。

意図的に荘厳さを演出した3中全会は、共産党幹部370人を集めて、習近平国家主席を礼賛し、「習近平新時代」の輝かしさを高らかにうたい上げることを目的としていた。しかし、実際は空疎な会議だったと言わざるを得ない。中国の停滞を打開するような内容は見られなかった。

習の演説は、準備に7カ月を要した長大なものだったが、その中身は矛盾だらけだった。「改革」という言葉を148回も繰り返す一方で、国有企業強化を最優先課題と位置付けたり、「人民中心」を宣言した次の瞬間に、共産党を「核心」と呼んだりといった具合だ。習自身、どうすればいいか途方に暮れているのだろう。

もっとも、全てを習の責任とするのはフェアでない。例えば、中国の金融セクターを大混乱に陥れた地方政府の債務問題は、過去の最高指導者である江沢民と鄧小平が推し進めた1994年の財政制度改革が直接の原因だ。当時の政策により、中国は四半世紀にわたる好景気を謳歌し、鄧、江、胡錦濤という歴代指導者は「奇跡の経済成長」の時期に国の舵取り役を務めるという栄誉を手にしたが、習はその政策の代償を払う羽目になった。

しかし、習も重大な政策上の過ちを犯している。鄧は中国経済を急速に成長させるために、投資を極端に偏重する戦略を採用した。その結果、家計の最終消費支出がGDPに占める割合は53 %と、際立って少なくなっている。このような状態は長続きしない。中国はもっと早く、メキシコ、ブラジル、マレーシアなど、好調な中所得国を見習って、消費の割合を増やすべきだった(これらの国々では70~80%程度)。

ところが、習はGDP成長率を高めることに血道を上げ、国民生活に回る金を増やそうとしなかった。軍の強化、南シナ海への勢力拡大、「一帯一路」構想の推進、チベット自治区や新疆ウイグル自治区などの遠隔地への幹線道路や高速鉄道の建設に莫大な資金をつぎ込んできた。台湾海峡に全長130㌔の橋とトンネルを建設し、中国本土と台湾を結ぶ計画も打ち出している。これらは全て、習の飽くなき拡張主義的野望を満たすためのものである。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ミャンマー地震の死者約700人に、タイの崩壊ビルで

ワールド

焦点:大混乱に陥る米国の漁業、トランプ政権が割当量

ワールド

トランプ氏、相互関税巡り交渉用意 医薬品への関税も

ワールド

米加首脳が電話会談、トランプ氏「生産的」 カーニー
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジェールからも追放される中国人
  • 3
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中国・河南省で見つかった「異常な」埋葬文化
  • 4
    なぜANAは、手荷物カウンターの待ち時間を最大50分か…
  • 5
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 6
    アルコール依存症を克服して「人生がカラフルなこと…
  • 7
    不屈のウクライナ、失ったクルスクの代わりにベルゴ…
  • 8
    最悪失明...目の健康を脅かす「2型糖尿病」が若い世…
  • 9
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えない「よい炭水化物」とは?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 7
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 8
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 9
    大谷登場でざわつく報道陣...山本由伸の会見で大谷翔…
  • 10
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中