トランプ番組「衝撃の舞台裏」を元プロデューサーが暴露...「詐欺」への加担を悔やむ

THE LONG CON

2024年6月20日(木)15時43分
ビル・プルイット(テレビプロデューサー)

今も番組にだまされたまま

編集段階で発言の撮り直しが決まった。トランプは役員室のセットに座り、ロサンゼルスにいるビーンストックが電話で指示するとおりに、せりふをマイクに向かって読んだ。

トランプは出場者に課題を言い渡した後、終盤まで出てこない。高いギャラを取る「主役」にしては長すぎる不在だ。そこで私たちは、トランプが経営者としての一家言(巧みに作られた台本だ)を述べるコーナーを作った。

これが、彼が予言者のように結末を見通しているかのような印象をもたらした。視聴者は「トランプは生まれつきのリーダーだ」と思い込まされたわけだ。

そう、私たちがやったのは詐欺だった。私たちは世間の人々をだました。

トランプの人種差別的な発言も女性蔑視の発言も、カネを踏み倒したとされる件もはったりも、風に吹かれて髪形が崩れたこともなかったことにされた。こうした場面を録画したビデオテープが発掘されることは決してないだろう。

確かに『アプレンティス』を見たことが直接の原因で財産を失った人はいない。だがトランプの名声が高まり、ついには大統領選への出馬を視野に入れるまでになったのは番組の力だ。

リアリティー番組が強欲なペテン師の台頭に道を開いた。事実は嘘によって覆され、欠点は見て見ぬふりをされ、欺瞞が行われ、視聴率と面白さだけが重視された結果だ。

トランプは今年の米大統領選で返り咲きを狙っており、一部の世論調査では現職のジョー・バイデンをリードしている。私の周囲にも、トランプを熱烈に支持し、彼の勝利を期待する人々がいる。

ポルノ女優ストーミー・ダニエルズへの不倫の口止め料を不正に処理した件で有罪評決が出るなど、さまざまな過去の問題が明らかになっても、なお支持者らがトランプに大統領を務める能力があると思っているのはなぜなのか。

それは、『アプレンティス』を見た時に「袋の中の豚」にだまされたまま、今に至っているからかもしれない。

©2024 The Slate Group

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:米大統領選で浮上のチップ非課税案、激戦州

ビジネス

アングル:テスラ運転支援技術、規制すり抜けライドシ

ビジネス

米国株式市場=ダウ最高値、雇用統計受け景気懸念が緩

ワールド

ハリス氏、アラブ系米国人指導者と会談へ 支持回復目
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:大谷の偉業
特集:大谷の偉業
2024年10月 8日号(10/ 1発売)

ドジャース地区優勝と初の「50-50」を達成した大谷翔平をアメリカはどう見たか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    借金と少子高齢化と買い控え......「デフレ三重苦」の中国が世界から見捨てられる
  • 2
    米軍がウクライナに供与する滑空爆弾「JSOW」はロシア製よりはるかにスマート
  • 3
    野原の至る所で黒煙...撃退された「大隊規模」のロシア軍機械化部隊、密集した車列は「作戦失敗時によく見られる光景」
  • 4
    羽生結弦がいま「能登に伝えたい」思い...被災地支援…
  • 5
    職場のあなたは、ここまで監視されている...収集され…
  • 6
    アラスカ上空でロシア軍機がF16の後方死角からパッシ…
  • 7
    オアシス再結成で露わになる搾取...「ダイナミック・…
  • 8
    ベッツが語る大谷翔平の素顔「ショウは普通の男」「…
  • 9
    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…
  • 10
    新NISAで人気「オルカン」の、実は高いリスク。投資…
  • 1
    ベッツが語る大谷翔平の素顔「ショウは普通の男」「自由がないのは気の毒」「野球は超人的」
  • 2
    ウクライナに供与したF16がまた墜落?活躍する姿はどこに
  • 3
    ウクライナ軍、ドローンに続く「新兵器」と期待する「ロボット犬」を戦場に投入...活動映像を公開
  • 4
    エコ意識が高過ぎ?...キャサリン妃の「予想外ファッ…
  • 5
    アラスカ上空でロシア軍機がF16の後方死角からパッシ…
  • 6
    【独占インタビュー】ロバーツ監督が目撃、大谷翔平…
  • 7
    大谷翔平と愛犬デコピンのバッテリーに球場は大歓声…
  • 8
    借金と少子高齢化と買い控え......「デフレ三重苦」…
  • 9
    NewJeansミンジが涙目 夢をかなえた彼女を待ってい…
  • 10
    米軍がウクライナに供与する滑空爆弾「JSOW」はロシ…
  • 1
    「LINE交換」 を断りたいときに何と答えますか? 銀座のママが説くスマートな断り方
  • 2
    ベッツが語る大谷翔平の素顔「ショウは普通の男」「自由がないのは気の毒」「野球は超人的」
  • 3
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレイグの新髪型が賛否両論...イメチェンの理由は?
  • 4
    「もはや手に負えない」「こんなに早く成長するとは.…
  • 5
    ウクライナに供与したF16がまた墜落?活躍する姿はど…
  • 6
    漫画、アニメの「次」のコンテンツは中国もうらやむ…
  • 7
    ウクライナ軍、ドローンに続く「新兵器」と期待する…
  • 8
    北朝鮮、泣き叫ぶ女子高生の悲嘆...残酷すぎる「緩慢…
  • 9
    エコ意識が高過ぎ?...キャサリン妃の「予想外ファッ…
  • 10
    キャサリン妃の「外交ファッション」は圧倒的存在感.…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中