最新記事
死刑制度

「彼女が言うんだ。もう大丈夫だって」優しく哀しい死刑囚が見た夢

Pastor to the Condemned

2024年6月14日(金)16時00分
ジョー・イングル(牧師)
(左から時計回りに)ウィリー・ダーデンは最期 を見届けてくれと言った/フィリップ・ワークマン(左)と筆者/電気椅子の操作スイッチ FOREFRONT BOOKS

(左から時計回りに)ウィリー・ダーデンは最期 を見届けてくれと言った/フィリップ・ワークマン(左)と筆者/電気椅子の操作スイッチ FOREFRONT BOOKS

<監房で常にコンクリートの上にいる彼はかつて愛した女性と「緑の芝生の上に立っていた」>

私は米南部ノースカロライナ州出身の白人の牧師だ。1970年代前半にニューヨークのユニオン神学校に通い、あるプログラムのためにイーストハーレムで活動した。

最終学年時に、ブロンクス拘置所に収監されている人々を訪ねた。この経験は私の人生を大きく変えた。

その後、南部の教会が行っているプログラムにボランティアで参加するため、テネシー州ナッシュビルに戻った。74年にテネシー州立刑務所で活動を始め、死刑囚との面会プログラムを立ち上げた。これが全ての始まりだった。

5月に出版した『炎に近づきすぎて(Too Close to the Flame)』に、私は死刑囚たちとの出会いを書いた。その1人が、フロリダ州のジョン・スペンケリンクだ。

newsweekjp_20240614035428.jpg

薬物を注射して死刑を執行するときに使うストレッチャー FOREFRONT BOOKS

ジョンは殺人を犯したが、正当防衛だった。死刑判決を受けたのは、最悪の弁護士が付いたからだ。死刑囚の大半は自前で弁護士を雇う余裕がないため、公選弁護人が付く。彼らはそれほど有能ではない。

私たちのグループは、79年春に当時のフロリダ州知事ボブ・グレアムに会い、ジョンの恩赦を求めた。しかし知事は死刑執行令状に署名し、ジョンは処刑された。

死の直前に手を振った彼

私はその後10年間、ジョンがいたのと同じ死刑囚監房に収監されている黒人のウィリー・ダーデンを訪ねた。彼は無実を主張し続けていた。やはり弁護士が無能だったのだ。

私たちはウィリーの無実を示す証拠を見つけ、法廷に提出しようとした。彼の刑の執行は何度も差し止められていたが、州知事が7通目の死刑執行令状に署名し、ついに処刑された。

フロリダの田舎の法廷で周りを見ると、黒人は自分だけだったとウィリーは話していた。「俺はミルクボウルの中の一粒のレーズンみたいだった」。彼に勝ち目はなかった。

newsweekjp_20240614035542.jpg

フィリップ・ワークマン(左)と筆者 FOREFRONT BOOKS

テネシー州のフィリップ・ワークマンには、警察と検察にはめられた証拠があった。彼らはフィリップを警官殺しの犯人だとしたが、銃の弾道に関係する証拠は彼が犯人ではないことを示していた。

ウェンディーズで強盗を働いたフィリップを逮捕しようとして、別の警官が仲間を誤って撃った可能性が高かった。だが2007年5月、フィリップの刑は執行された。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国、二国間貿易推進へ米国と対話する用意ある=商務

ビジネス

ノルウェー・エクイノール、再生エネ部門で20%人員

ワールド

ロシア・イラク首脳が電話会談 OPECプラスの協調

ワールド

トランプ次期米大統領、ウォーシュ氏の財務長官起用を
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中