最新記事
中東

各地の「イランの民兵」が、はじめて対イスラエルの合同軍事作戦を実施した

2024年6月10日(月)14時07分
青山弘之(東京外国語大学教授)

だが、その一方で、アンサール・アッラーとイラク・イスラーム抵抗を除く「イランの民兵」、あるいは「抵抗枢軸」は、イスラエルに対して統合的な軍事攻撃を行おうとしてはいない。

ヒズブッラーは、5月31日のレバノン南部に対するイスラエル軍の爆撃で女性や救急隊員が殺害されたことへの報復として、6月1日にはイスラエル軍のヘルメス900無人航空機を撃墜するなどして攻撃を強め、対するイスラエル軍も6月3日にヒズブッラーの増強部隊のアリー・フサイン・サブラを暗殺するなどして対抗していた。だが、6月6日に入ると、ヒズブッラーは、紛争全体がエスカレートするのを嫌うかのようにイスラエル北部への攻撃の強度を若干緩和した。

 

シリア政府も、その武力の矛先を、イスラエルではなく、イスラーム国に向けることで、不関与の姿勢を継続しようとしている。

シリア領内では、ロシア軍が6月に入ってから、米国の占領下にあるヒムス県のタンフ国境通行所一帯地域、通称55キロ地帯からヒムス県やダイル・ザウル県の奥地に潜入していた「テロリスト」の基地を破壊したとの発表を繰り返すようになっていた。6月6日、ロシア軍の支援を受けるスハイル・ハサン准将率いるシリア軍第25特殊任務師団や、バッシャール・アサド大統領の弟のマーヒル・アサド准将が実質司令官を務める第4(機甲)師団が、ロシア軍の航空支援を受けて、55キロ地帯に至る南東部砂漠地帯でイスラーム国の掃討を目的とした大規模作戦を開始した。

イスラエルがガザ地区においてハマースを無力化するまで、攻撃を停止することはなく、また、イスラエルに武力をもって対峙する唯一の勢力である「イランの民兵」も、欧米諸国で戦闘停止を訴える活動家も、攻撃を抑止する能力を持たない、という焦燥感は、専門家の間では半ば常識となっている。

こうしたなかで、「イランの民兵」は、一方でイスラエルに対する強硬姿勢を維持しつつ、他方でハマース・イスラエル衝突後を見据えた抵抗闘争の継続のありようを模索しなければならない。イスラエルへの敗北を印象づけるような全面対決は、こうした中長期的戦略には資さないのである。

20250121issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年1月21日号(1月15日発売)は「トランプ新政権ガイド」特集。1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響を読む


※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中