最新記事
中国

中国が欧米パイロットを引き抜き、ファイブアイズが警告

2024年6月10日(月)13時00分
マイカ・マッカートニー
中国海軍初の空母「遼寧」上の艦載機(17年7月) SAM TSANGーSOUTH CHINA MORNING POST/GETTY IMAGES

中国海軍初の空母「遼寧」上の艦載機(17年7月) SAM TSANGーSOUTH CHINA MORNING POST/GETTY IMAGES

<中国が欧米のパイロットを指導役に採用し、自国の航空戦力を強化しようとしていると、米国家情報長官室が発表した>

中国が欧米人パイロットを「指導役」として勧誘している──米政府は「ファイブアイズ」(米、英、オーストラリア、カナダ、ニュージーランドの機密情報共有同盟)と連名で、そう警告した。

「中国人民解放軍は欠点を克服すべく、自国の飛行士を訓練する目的で欧米の軍事分野の人材を積極的に引き抜いている」と、米国家情報長官室(ODNI)が発表した5カ国の共同文書は指摘する。

中国軍とのつながりをぼかすため、中国当局は自国と南アフリカにある民間企業を使い、元軍人や現役の軍人、特にアメリカとNATO同盟国の戦闘機パイロット、フライトエンジニア、航空作戦要員を探しているという(本誌はこの件で米空軍に電子メールでコメントを求めている)。

「中国軍は欧米の軍事的専門知識を盗むことにより、航空能力を向上させ、将来の作戦計画を改善し、欧米の軍事戦略に対抗できる」と声明は指摘。中国に専門知識を流出させた現・元軍人たちは、出身国の軍人の安全や国家安全保障を脅かすと付け加えた。

この声明は現・元軍人に対し、「最終的な『受益者』が曖昧な」勧誘に注意し、「魅力的な契約」や「特別な航空機」を操縦する機会に警戒するよう、クギを刺した。勧誘に乗った指導役が「法的危険」に直面する可能性があるとも警告している。

例えばオーストラリア政府は2022年、元米海兵隊パイロットのダニエル・ダガン(退役後オーストラリアに帰化)が北京滞在中の6年間、中国人パイロットに空母への離着艦訓練を行ったとして、米武器輸出管理法違反の疑いで逮捕した。ダガンは容疑を否定。身柄引き渡しを求める米政府と法廷で争っている。

英国防省は同じ22年、最大30人の元英軍パイロットが中国でパイロットの訓練を行ったと発表。この他にも現役軍人を含む多くのパイロットに中国関係者が接触した事実を把握していると述べた(在米中国大使館はコメント要請に対し、即座に返答しなかった)。

中国は35年までの軍近代化を目標に掲げ、過去数十年間に大きな軍事的進歩を遂げてきた。習近平(シー・チンピン)国家主席は、中華人民共和国建国100周年の49年までに「世界一流」の軍隊になることを人民解放軍に求めている。

現在では殲20(J20)と殲31(J31)という2種類の第5世代ステルス戦闘機を保有。核兵器と極超音速ミサイルも急ピッチで能力を拡大させている。海軍は艦艇数で世界最大。2隻の空母を保有しているが、NATOの空母に比べれば小型で、性能も劣る。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

加藤財務相、「為替水準の目標」話題にならず 米財務

ワールド

米との鉱物資源協定、週内署名は「絶対ない」=ウクラ

ワールド

ロシア、キーウ攻撃に北朝鮮製ミサイル使用の可能性=

ワールド

トランプ氏「米中が24日朝に会合」、関税巡り 中国
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは?【最新研究】
  • 2
    日本の10代女子の多くが「子どもは欲しくない」と考えるのはなぜか
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 5
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    「地球外生命体の最強証拠」? 惑星K2-18bで発見「生…
  • 8
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 9
    謎に包まれた7世紀の古戦場...正確な場所を突き止め…
  • 10
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 10
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中