最新記事
インド

インドで「性暴力を受けた」、旅行者の告発が相次ぐ...なぜ多くの被害者は「泣き寝入り」になるのか?

A NATIONAL CRIME

2024年5月30日(木)17時45分
カビタ・チョウドリー
インドでの性犯罪を告発する声が上がる

ムスリム女性に対する集団レイプで終身刑に服していた11人全員の早期釈放に抗議する人々(2022年8月) AP/AFLO

<性犯罪を告発することは政府批判と同じ? 最悪の文化を助長するモディ政権の姿勢>

7人の男たちにレイプされた──。インド東部ジャルカンド州をバイクで旅行していたスペイン人とブラジル人の夫婦が、そんな衝撃的な告発をしたのは、今年3月1日のこと。それ以前からアジア各地を巡る旅の様子をソーシャルメディアに投稿していた2人は、妻が強姦され、夫も暴行を加えられたことを傷だらけの顔で報告した。

たちまち動画は幅広くシェアされ、外国のメディアも大きく取り上げる事態に発展した。X(旧ツイッター)やインスタグラムには、インドで一人旅をしたとき恐ろしい目に遭ったと告白する女性たちの投稿があふれた。

同時に外国人観光客がこのような目に遭うなら、インドの女性たちは日常的にどれほど危険な目に遭っているのかという声も高まった。

この事件に関連して、レイプそのものと同じくらい大きな批判を呼んだのは、インドの公的機関である国家女性委員会(NCW)のレカ・シャルマ委員長の発言だった。

あるアメリカ人ジャーナリストが、「インドのことは大好きだが」、インドに住んでいたとき目にした「性暴力は、世界のどこでも見たことのないレベルだった」とXに投稿したところ、シャルマは「インドを中傷している」と、性暴力の被害者に心を寄せるどころか、的外れなインド擁護論を展開したのだ。

だが、シャルマの反応は、この国の政治家の発言として驚きではない。むしろ2014年にインド人民党(BJP)が政権を握って以来、性暴力事件に対する与党のお決まりの反応だと言っていい。

「女性のパワー」を訴えるモディ政権だが性暴力については沈黙

ナレンドラ・モディ首相の政府は、表向きは「ナリ・シャクティ(女性のパワー)」を唱えているが、性暴力には一貫して沈黙を守ってきた。シャルマだけでなく、スムリティ・イラニ女性児童育成相など、まさに女性を擁護する立場にある女性政治家が、性暴力に対して声を上げた女性たちを、政権を不当に批判する人物と決め付けることも珍しくない。加害者がBJPの議員や党職員の場合は特にそうだ。

女子レスリング五輪代表選手としてインドにメダルをもたらしたサクシ・マリクと、ビネシュ・フォガットが昨年、インドレスリング連盟トップ(当時)でBJP議員のブリジ・ブシャン・シャラン・シンをセクハラで告発したときもそうだった。マリクとフォガットはシンを法の裁きにかけるべく大きな犠牲を払ったが、モディは今も沈黙を守っている。

BJPにとっては、シンがベテラン政治家で、地元北部ウッタルプラデシュ州の選挙に影響を与えられる人物である事実のほうが、女性アスリートの苦悩よりも重要なのだ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ミャンマー地震の死者1000人超に、タイの崩壊ビル

ビジネス

中国・EUの通商トップが会談、公平な競争条件を協議

ワールド

焦点:大混乱に陥る米国の漁業、トランプ政権が割当量

ワールド

トランプ氏、相互関税巡り交渉用意 医薬品への関税も
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...スポーツ好きの48歳カメラマンが体験した尿酸値との格闘
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    最古の記録が大幅更新? アルファベットの起源に驚…
  • 5
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 6
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 7
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 8
    「炊き出し」現場ルポ 集まったのはホームレス、生…
  • 9
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 10
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 6
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 7
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中