最新記事
インド

インドで「性暴力を受けた」、旅行者の告発が相次ぐ...なぜ多くの被害者は「泣き寝入り」になるのか?

A NATIONAL CRIME

2024年5月30日(木)17時45分
カビタ・チョウドリー

インドでの性犯罪を告発する声が上がる

BJPの大物政治家でインドレスリング連盟会長(当時)のシンをセクハラで告発した女子レスリング五輪代表選手たち VIPIN KUMARーHINDUSTAN TIMES/GETTY IMAGES

一方、東部の西ベンガル州の農村で、複数の女性たちが、同州議会与党・草の根会議派(TMC)の実力者であるシャージャハーン・シェイクに性的暴力を受けたと主張している事件には、全国的な注目が集まっている。州政府の圧力を受けて、警察は50日以上もシェイクを自由にさせていたが、2月にカルカッタ高等裁判所の命令により、ようやく逮捕に踏み切った。

保守的で家父長制が強く残るインドでは、昔から女性が暴力の標的になりやすかった。それでもBJPが権力を握ってからの10年間に、いかに多くの性犯罪者が「おとがめなし」で済まされてきたかは衝撃的だ。

野党や人権活動家らが、女性を守るというモディ政権の「虚言」を非難するのは無理もない。モディ政権は少女たちの保護と教育を重要政策に掲げているが、むしろ必要なのは少女たちをBJPの毒牙から守ることだと、彼らは主張する。

BJPは上位カーストの犯罪者たちを徹底擁護

ヒンドゥー至上主義を掲げるBJPは家父長制にしがみつき上位カーストによる支配を擁護している。20年、ウッタルプラデシュ州のハトラス地区で貧しいダリト(不可触民)の少女が富裕な上位カーストの男たちに集団レイプされ、その後搬送先の病院で死亡。警察は男たちの容疑を否定したばかりか遺族の承諾なしに被害者の遺体を火葬して証拠隠滅を図った。

市民の猛反発を受けてヨギ・アディティナート州首相は重い腰を上げたが、被告4人のうち3人は無罪、残る1人は殺人罪ではなく、より軽い故殺罪で有罪になった。

特にムスリム(イスラム教徒)の女性はBJPの女性蔑視の標的になりやすい。ヒンドゥトバ(ヒンドゥー至上主義)の活動家はヒンドゥーの女性に対するムスリムの男のさまざまな罪を罰するためと称して、ムスリムの女たちを妊娠させろとヒンドゥーの男たちをあおり、ムスリムの女たちをレイプすると脅す。

「競売」と称して著名なムスリム女性の写真とプロフィールを勝手に公開する「ブリバイ」や「サリディール」というサイトも見つかっている。

国の権威主義的な力が露呈したのは、02年のある集団レイプ事件がきっかけだった。インド独立以来最悪の部類に入る暴動の最中、モディが州首相を務めていた西部グジャラート州でムスリムの妊婦をヒンドゥー教徒の男たち11人がレイプ。泥沼の法廷闘争の末、全員が有罪判決を受けて終身刑を言い渡された。

ところが22年8月、州政府は彼らを「模範囚」として釈放し、インド内務省もこれを承認。この法をゆがめた茶番劇は著名な女性活動家たちの猛反発を買い、今年1月にインド最高裁判所が早期釈放の判断を覆した。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中