イランのライシ大統領墜落死で革命と神権政治の仮面をかぶった「暴力国家」に加わるさらなる嘘
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ただし、イランの現体制は世襲制否定の上に成り立っている面もあり、モジュタバが権力を握れば、革命と神権政治の仮面をかぶった暴力国家にさらなる嘘が加わることになる。かといって、政権の教義に同調する著名な神学者が大勢いて、その中から後継者を選べるわけでもない。
悲劇的な皮肉だが、辛辣で保守的なライシが、イランが神権主義の軍事政権に転落するのを防ぐ防波堤の役割も担っていた。革命防衛隊は何十年にもわたって権力を拡大し、経済と国家のさまざまな部門を支配してきた。
彼らはイデオロギー的にハメネイ政権を支持する数少ない部門であり、しかも武器を持っている。誰が次期大統領になろうとも、革命防衛隊の政府や社会への影響力がこれまで以上に強まるのは確実だ。
神権主義の軍事国家への転落は今後も続くだろう。遠くない将来、革命防衛隊が公然と最高権力を担うシナリオもあり得るかもしれない。
驚くべきことに、現支配層の後継世代は、神学的にも政治的にもライシ以上に保守的だ。世界中のポピュリストの間でエリート層への拒絶反応が広がるなか、彼らはそのイラン版として、現指導部の腐敗と皮肉主義に不満を募らせ、アメリカにより直接的に対抗したいと考えている。
それでも、ハメネイは政権維持のために彼らの支持を必要としている。そのため、次期大統領、そして最終的には精神的指導者である自身の後継者を指名する際に、彼らの意見を考慮せざるを得ない。
ライシもハメネイも革命防衛隊も、イラン国民の大多数が政権の保守的な神学的信条やさまざまな制約に否定的であることを認識している。ということは、残念ながら、次期指導者が市民への制約を増やし、保守的な路線を取る可能性が極めて高い。
「士気が上がるまで殴打し続ける」という英語圏での古い冗談が、悲劇的な形で現実になるのである。
代理勢力による危険な挑発
対外政策では、ライシは「抵抗の外交」を追求し、西側、とりわけアメリカに対する敵意を強めてきた。しかし一方で、欧米諸国との核合意の再交渉には前向きだった。
さらにライシは、レバノンのヒズボラ、イエメンのフーシ派をはじめ、地域のさまざまなシーア派武装組織、ガザ地区を実効支配するハマスなどの代理勢力を通じて、中東での影響力を拡大するというイランの長年の努力を強化してきた。