ローレンス・ウォン新首相誕生:シンガポールの繁栄は続くか?
End of an Era in Singapore
経済に関しては、前任のリー・シェンロンがシンガポールを世界のトップクラスに引き上げた。IMFのデータによれば、この国の1人当たりGDPは04年時点で2万7610ドルだったが、今は8万8450ドル。この数字は日本の2.5倍であり、シンガポールと競り合う隣国マレーシアの6倍以上だ。
それでも国内では体制への不満が渦巻き、外交面では地政学的な嵐に見舞われている。数字で見る限り、この20年でこの国が途方もなく豊かになったのは事実。だが香港科技大学のロウが前掲の寄稿で指摘したとおり、「成長の代償として人口が激増し国民は不満を募らせ」ている。交通渋滞はひどいし、雇用や公共財をめぐる競争は激化し、住居費は高騰。移民の増加でシンガポール人のアイデンティティーも失われつつあるという。
シンガポール人の所得水準は確かに高いが、住居費や生活費の高さも突出している。住宅開発庁の公式統計でも、不動産の賃借料は過去20年で2倍以上になり、「世界で最も物価の高い都市ランキング」では常に上位に登場する。
一方で少子高齢化も進む。65歳以上の高齢者が総人口に占める割合は13年の11.7%から19.1%に増加しており、30年には25%に近づく見通しだ。出生率も昨年は0.97で、史上最低を記録した。
それでも新規の移民が多いから人口は増え続ける。00年段階の総人口は400万だったが、今は600万に迫る。こうなると公共サービスが追い付かないし、国民の意識もばらばらになる。中国からの移民が急増しているのも、政府にとっては懸念材料だ。
加えて、ウォン新首相は選挙にも勝たねばならない。与党PAPは65年の独立以来一貫して政権を維持しており、前回20年の総選挙でも93議席中83議席を獲得したが、得票率は15年の総選挙時から9ポイントも下がっていた。強権的で息苦しく、自由にモノを言えない現状に、若い世代が背を向けたせいだろう。
残る10議席を獲得したのは最大野党の労働者党で、当時の世論調査によれば、同党の支持者は21~25歳の年齢層で最も多かった。PAPと袂(たもと)を分かった新党「進歩シンガポール党」も、議席は逃したものの得票率は10%だった。
こうした結果を受けて、PAPは「心からの見直し」を口にしたが、実際には今まで以上に政府批判を封じる仕組みを導入した。オンライン上の「虚偽情報および世論操作」や「外国からの干渉」を防ぐ法律の制定などだ。