最新記事
シンガポール

ローレンス・ウォン新首相誕生:シンガポールの繁栄は続くか?

End of an Era in Singapore

2024年5月20日(月)13時00分
セバスチャン・ストランジオ(ディプロマット誌東南アジア担当エディター)
5月15日の就任式で前職のリー・シェンロンと握手を交わすウォン首相(左) EDGAR SUーPOOLーREUTERS

5月15日の就任式で前職のリー・シェンロンと握手を交わすウォン首相(左) EDGAR SUーPOOLーREUTERS

<20年ぶりの首相交代で「リー家の時代」が終わり、奇跡的な繁栄の持続には黄信号が点滅>

去る5月15日、シンガポールで20年ぶりに首相が交代した。いや、政権交代ではない。与党・人民行動党(PAP)の既定路線に従って72歳のリー・シェンロンが職を辞し、51歳で副首相兼財務相のローレンス・ウォンに首相の座を譲っただけのこと。絵に描いたような世代交代劇だが、「リー家の時代」の終焉を告げる出来事でもある。

1965年の独立以来、この小さな都市国家(面積は東京23区より少し広い程度)を率いてきた「国父」リー・クアンユーは90年に首相職を辞し、腹心のゴー・チョクトンを中継ぎの首相に据えた。そのゴーは2004年に予定どおり職を辞し、国父の長男リー・シェンロンに首相の座を譲ったのだった。

今回の首相交代も、実は2年前から予告されていた。しかしリー家の3代目が次期首相となる予定はない。「Nikkei Asia」に寄稿した香港科技大学のドナルド・ロウ教授に言わせれば「シンガポール史上初めて、首相にも次期首相候補にもリー家の男がいない事態」となったのである。

では新首相ローレンス・ウォンとはいかなる人物か。5月6日の英エコノミスト誌とのインタビューでは「誰の意見にも耳を傾ける」と言いつつ、いざとなれば国家と国民の利益になる限り「どんなに難しい決断」も下すと言い切った。実際、コロナ禍では断固たる措置を取り、社会の高齢化に備えて消費税の引き上げに踏み切るなど、国民に不人気な施策も断行してきた。

また5月10日にはフェイスブックに「わが国は今後も、国民の集合的意思のみによって築かれた稀有な国であり続ける」と書き込み、「この奇跡を可能な限り持続させるのが私の使命」だとしている。

しかし前任のリー・シェンロンが首相となった04年当時に比べると、今のシンガポールは政治的にも経済的にも、そして社会的にも厳しい状況に置かれている。ちなみに20年前の状況も、決してバラ色ではなかった。97年にはアジア通貨危機があり、03年にはSARS(重症急性呼吸器症候群)の流行があり、アメリカ主導の「対テロ戦争」のあおりも受けていた。

求められるのは革新性

一方、豪フリンダース大学准教授のマイケル・バーはオンライン誌「東アジア・フォーラム」への寄稿で、ウォンを「官僚的継続性の体現者」と評した。

そうした継続性は「行政に欠かせないもので、いい時代ならば政治的にも美徳とされる」が、あいにく今は「いい時代ではない。さまざまな課題を抱えた今のシンガポールに必要なのは官僚的継続性よりも大胆で新しい発想だ」。バーはそう指摘している。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ベトナム戦争終結50年、ホーチミンで式典 祝賀パレ

ワールド

メキシコ、3.9万人の送還受け入れ トランプ政権発

ビジネス

焦点:国内生保、25年度の円債投資は入れ替え中心 

ビジネス

欧州企業の第1四半期、1.7%減益見込み 貿易摩擦
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中居正広事件は「ポジティブ」な空気が生んだ...誰も…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 9
    トランプの中国叩きは必ず行き詰まる...中国が握る半…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中