ISは復活し、イスラム過激派が活性化...モスクワ劇場テロで狼煙を上げた「テロ新時代」を地政学で読み解く
A GROWING THREAT
21年の米軍のアフガニスタン撤退と、それに続くタリバンの権力掌握は、この地域の力学に大きな影響を与える出来事だった。ただ、アジアにおける新しい戦略的競争に軸足を移したいと考えていたアメリカにとっては、アフガニスタンから撤退することは難しい選択ではなかった。
難しい状況に陥ったのは、タリバンという強力な過激主義組織が政権を握るアフガニスタンに対処しなければならなくなった周辺諸国だ。
それまで20年間のアフガニスタンは、アメリカとNATOの軍事的な傘の下で比較的安定していたから、近隣諸国(中国やロシアを含む)は自らの戦略的利益を追求することに注力できた。アフガニスタン国内の民族を支援することで、その政治に影響を与えることもできた。だが、米軍が撤退したことで、アフガニスタンは「アジアの問題」になった。
とはいえ、ロシアや中国やイラン(いずれもアメリカにとって最大の敵対国だ)は、この状況を喜んでいる。例えばイランは現在、アメリカとの関係が過去最悪レベルに落ち込んでいるが、そんなときに国境の東隣にいたアフガニスタン駐留米軍という大きな重しが消えた。
今も続く米軍「アフガン撤退」の波紋
イランは歴史的に、アフガニスタン、とりわけタリバンと対立してきた。1990年代には、アフメド・シャー・マスードを最高指導者とする北部同盟(タリバンと対立していた軍閥のグループ)を支援していた。インドやロシア、タジキスタンなども、タリバンおよびタリバンに資金を提供していたパキスタンに敵対する軍閥を支援していた。
ところが21年になると状況は一変する。イランは復活したタリバン政権と正式な外交関係や経済関係を結び、健全なレベルの反欧米姿勢と、イランとの国境を比較的平穏に維持することと引き換えに、タリバン政権への支援拡大を提案した。
イランと最も親しい国であるロシアと中国もこれに続いた。この3国は全て、ある意味でタリバンをアフガニスタンの事実上の支配者と認めた。中国の習近平(シー・チンピン)国家主席は、タリバンが任命した中国大使の信任状を正式に受理した。
ロシアはソ連時代の79年に始めたアフガニスタン侵攻で米軍が支援した武装組織に痛い目に遭わされた経験から、今でもこの国への関与には及び腰だが、22年にはタリバンの外交官のモスクワ駐在を認めた。規制対象のテロ組織のリストからタリバンを外すことも検討している。