最新記事
サイエンス

問題はプベルル酸が入っていた「量」だ...小林製薬はなぜ異物混入を見抜けなかった? 東大准教授がゼロから徹底解説

Search for Fatal Ingredient X

2024年4月10日(水)08時30分
小暮聡子(本誌記者)

本件は、品質管理を議論する上で重要な事例でしょう。ただし、小林化工の場合は純度の高い医薬品の製造を行っていて、検査自体の難易度は高くないと思われます。今回問題になっている紅麹の場合は、ベニコウジカビという生物が作る様々な天然化合物の複雑な混合物が対象ですので、分析の難易度は遥かに高くなると思われます。

ものによっては千年以上にも及ぶ摂取実績がある通常の食品とは違って、摂取実績の乏しい生物の生産物由来のサプリメント等の安全性をどのように確保していくのかは、今後の課題の1つであると思います。

ともあれ、今回の紅麹問題の原因物質が何なのか、問題はどこにあったのか、それらを解明することが最優先です。

私が実験指導や講義等でも学生に伝えていることですが、データは嘘をつきません。正確なデータは科学のα(アルファ)そしてω(オメガ)です。つまり、正確なデータを積み上げれば必ず適切な結論へと辿り着くことができる、ということです。今後この問題が着実に解明されていくことを、一研究者として願っています。

企業側が品質管理を徹底すべきなのは間違いないですが、一方で消費者も天然由来のものを甘く見るのは良くないですね。生産者にとっても消費者にとっても、今回の件が食品や天然化合物と呼ばれるものとの付き合い方を、いったん立ち止まって考えるきっかけになると良いと思います。

医薬品や農薬には人工物が多いのですが、サプリは一般的には天然化合物を原料にしたものが多く、天然化合物のいい部分をある意味濃縮して体内に取り入れているわけです。しかし、人工物であれ天然化合物であれ、重要なのはその製品の安全性です。

なんでも安全なのだと思い込むのではなくて、自然を侮らず、人間に害を及ぼすものもあり得るという知識をもつことが大切だと思います。自然由来のものにもリスクはあるのです。

newsweekjp_20240410020007.png小倉由資(おぐら ゆうすけ)

東京大学大学院 農学生命科学研究科 応用生命化学専攻 准教授。栃木県宇都宮市出身。2012年 同研究科博士課程修了、博士(農学)取得。専門は有機合成化学および天然物化学。英国オックスフォード大学化学科 博士研究員、東北大学大学院 農学研究科 助教を経て2020年より現職。学生時代より一貫して有機合成化学的手法による天然有機化合物の量的供給や構造決定に関する研究を展開。興味深い生命現象を引き起こす天然有機化合物の作用機構にも関心を持ち、合成化学的手法を利用した研究も進めている。最近ではミツバチに寄生して猛威を振るうダニの防除物質を発見し、その応用によるミツバチの保護を目指した研究に注力している。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

尹大統領の逮捕状発付、韓国地裁 本格捜査へ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 8
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 9
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 10
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中