最新記事
東南アジア

トゥオン国家主席が「電撃的解任」ベトナム共産党版の反腐敗闘争に明日はあるのか?

Vietnam’s New Realities

2024年3月27日(水)18時32分
セバスチャン・ストランジオ(ディプロマット誌東南アジア担当エディター)
ベトナム共産党版反腐敗闘争の出口

わずか1年余りで国家主席の座を退くことになったボー・バン・トゥオン CARLOS BARRIAーREUTERS

<就任からわずか1年で国家主席が突如解任された。前任者に続く異例となる主席の連続退場が物語るベトナムの汚職の深刻さと、党内権力闘争の見えない結末の行方>

ベトナム国会は3月21日、ボー・バン・トゥオン国家主席(53)の解任を決議した。これで1年半もしないうちに、2人の国家主席が相次ぎ辞任したことになる。

ベトナム共産党中央執行委員会は20日の声明で、トゥオンの「個人的な願いを受け」て、全ての公職および党職からの辞任を了承したと発表。同時に「ボー・バン・トゥオンの違反と短所は、共産党の評判を傷つけた」としている。

ロイター通信がベトナム国営メディアを引用して報じたところによると、21日の国会の採決は、党中央執行委の決定を承認したものだ。後任人事についての報道はなく、当面は憲法に基づき、ボー・ティ・アイン・スアン副主席が国家主席代行を務めるという。

トゥオンが国家主席に就任したのは昨年3月。その2カ月前、前任者であるグエン・スアン・フックは、新型コロナ感染拡大対策に絡んだ汚職事件に関与したことが明らかになり辞任した。ただ最近になり、トゥオン自身の辞任の噂もささやかれていた。

国賓訪問がキャンセルに

それが一気に現実味を帯びてきたのは、前週予定されていたオランダ国王夫妻の国賓訪問が、ベトナム側の「国内事情により」延期されるとの声明が、オランダ王室から発表されたときだ。本来ならトゥオンが国家主席として賓客をもてなすはずだった。

党中央執行委の声明は、トゥオンの具体的な「違反と短所」には触れていない。だが、ベトナムの最高指導者であるグエン・フー・チョン党書記長が進めてきた腐敗追放運動と関連していることは、ほぼ間違いないだろう。

ISEASユソフ・イシャク研究所(シンガポール)のレ・ホン・ヒエップ客員研究員によれば、トゥオンはベトナムの不動産開発大手フックソンが絡む贈収賄事件に関与した疑いがある。

さらに、「非公式だが信頼できる情報筋」によると、トゥオンがクアンガイ省の党委員会書記だった2011~14年、「トゥオンの親戚がフックソンから600億(約240万ドル)を受け取っていた」という。その目的は「トゥオン家の先祖を祭る霊廟を建てるためだったらしい」。

今年3月中旬には、クアンガイ省の元トップ(かってトゥオンの部下だった人物だ)が、汚職容疑で逮捕された。

チョンが16年から進めてきた腐敗追放運動は、党および政府の上層部にも大きく切り込んできた。

最高指導部である党政治局でも、18人のメンバーのうちフックとトゥオンを含む4人が失脚。さらに副首相が1人、閣僚が2人、地方政府トップが10人以上、そして文字どおり数百人の政府関係者が「犠牲」になった。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中