【本誌調査で判明】米政府、モスクワの大使館維持のためにロシア企業と契約 800万ドルの支払いは妥当か?
THE PRICE OF DIPLOMACY
米大使館がロシア企業と付き合うことには別の懸念もある。大使館に出入りするロシア人に機密を盗まれかねないことだ。
現にそうした事例はある。1979年、在モスクワの米大使館の新築工事が始まり、旧ソ連の労働者が作業を請け負った。85年に警備の専門家が建物中に盗聴システムが張り巡らされていることを発見。米国務省は、ソ連の労働者を建設現場から締め出したが、その後も盗聴器が見つかり、米政府は建物を解体して新たに建て直すことにした。2億4000万ドルを費やして工事は完了。米大使館は2000年に再開した。
フルチャーは盗聴は後を絶たないとみて、大使館の建て直しは「税金と時間の無駄」だったと吐き捨てる。「歴史は繰り返すと言うが、大使館の建て直しは避けたい」
アレンによると、米大使館がロシア人職員を雇うのは必要不可欠な場合のみにせよ、雇えば必ず「あちらこちらに盗聴器を仕掛ける」と言う。「そもそもの初めから、これはカウンターインテリジェンス(防諜)の問題だと私は思っていた」と、アレンは本誌に語った。
「ロシアが米大使館を最大限スパイ活動に利用することは疑う余地がない」が、アメリカは「機密の通信と情報を守る極めて有効な手順や対応策を編み出している」と話すのは、米国務省の国際経済政策に関する諮問委員会の元スタッフ、スティーブン・マイヤーズだ。アメリカは80年代の経験から学んだ、というのだ。
「ロシアに払うカネがあるなら」
米大使館がロシア企業と契約を結んでいることが明らかになった時期は、ウクライナへの支援疲れが広がりだした時期と重なる。バイデン政権は610億ドルのウクライナ支援を盛り込んだ法案を共和党が多数議席を握る下院に通そうとして苦戦中だ。共和党内にはそれだけのカネを使うなら、メキシコとの国境警備に充てるべきだとの声もある。
昨年12月にピュー・リサーチセンターが行った世論調査では、アメリカ人の31%が米政府のウクライナ支援は多すぎる、29%がちょうどよい、18%が不十分と回答した。
英ランカスター大学のヒラリー・インガム教授(経済学)によれば、この戦争でウクライナが勝てるのかと疑う声も高まっているという。