最新記事
米ロ関係

【本誌調査で判明】米政府、モスクワの大使館維持のためにロシア企業と契約 800万ドルの支払いは妥当か?

THE PRICE OF DIPLOMACY

2024年3月13日(水)13時30分
ケイト・プラマー(本誌記者)

米大使館がロシア企業と付き合うことには別の懸念もある。大使館に出入りするロシア人に機密を盗まれかねないことだ。

現にそうした事例はある。1979年、在モスクワの米大使館の新築工事が始まり、旧ソ連の労働者が作業を請け負った。85年に警備の専門家が建物中に盗聴システムが張り巡らされていることを発見。米国務省は、ソ連の労働者を建設現場から締め出したが、その後も盗聴器が見つかり、米政府は建物を解体して新たに建て直すことにした。2億4000万ドルを費やして工事は完了。米大使館は2000年に再開した。

フルチャーは盗聴は後を絶たないとみて、大使館の建て直しは「税金と時間の無駄」だったと吐き捨てる。「歴史は繰り返すと言うが、大使館の建て直しは避けたい」

アレンによると、米大使館がロシア人職員を雇うのは必要不可欠な場合のみにせよ、雇えば必ず「あちらこちらに盗聴器を仕掛ける」と言う。「そもそもの初めから、これはカウンターインテリジェンス(防諜)の問題だと私は思っていた」と、アレンは本誌に語った。

「ロシアが米大使館を最大限スパイ活動に利用することは疑う余地がない」が、アメリカは「機密の通信と情報を守る極めて有効な手順や対応策を編み出している」と話すのは、米国務省の国際経済政策に関する諮問委員会の元スタッフ、スティーブン・マイヤーズだ。アメリカは80年代の経験から学んだ、というのだ。

「ロシアに払うカネがあるなら」

米大使館がロシア企業と契約を結んでいることが明らかになった時期は、ウクライナへの支援疲れが広がりだした時期と重なる。バイデン政権は610億ドルのウクライナ支援を盛り込んだ法案を共和党が多数議席を握る下院に通そうとして苦戦中だ。共和党内にはそれだけのカネを使うなら、メキシコとの国境警備に充てるべきだとの声もある。

昨年12月にピュー・リサーチセンターが行った世論調査では、アメリカ人の31%が米政府のウクライナ支援は多すぎる、29%がちょうどよい、18%が不十分と回答した。

英ランカスター大学のヒラリー・インガム教授(経済学)によれば、この戦争でウクライナが勝てるのかと疑う声も高まっているという。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

新型ミサイルのウクライナ攻撃、西側への警告とロシア

ワールド

独新財務相、財政規律改革は「緩やかで的絞ったものに

ワールド

米共和党の州知事、州投資機関に中国資産の早期売却命

ビジネス

米、ロシアのガスプロムバンクに新たな制裁 サハリン
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 6
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 9
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 10
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 9
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中